「飲食店を経営していると、税金の種類が多くて混乱する…」
「個人事業主と法人でどう違うの?」
「節税対策を知りたい!」
そんな悩みを抱えている飲食店経営者の方も多いのではないでしょうか。
飲食店経営者が押さえておくべき税金の知識として、個人事業主と法人で異なる税金の種類、消費税の納税義務、軽減税率制度などが挙げられます。
それぞれの特徴を理解したうえで、自分のお店に合った節税対策を実践することが重要です。
こちらの記事では飲食店経営における税金の基本から、個人事業主と法人それぞれにかかる税金の種類、消費税の納税義務や計算方法について解説します。節税対策についても紹介しているのでぜひ最後までご覧ください。
飲食店経営における税金の基礎知識
飲食店を経営するうえで税金は避けて通れません。
事業主であれば税金に関してあらゆる知識を身につけておくことは大切ですが、特に飲食店経営者が知っておくべき税金の知識として次の4つがあります。
- 個人事業主と法人で税金の種類が異なる
- 個人事業主にかかる税金
- 法人にかかる税金
- 個人事業主と法人の両方にかかる税金
それぞれ詳しく解説します。
個人事業主と法人で税金の種類が異なる
飲食店経営における税金は個人事業主として経営する場合と法人として経営する場合で、課せられる税金の種類が異なります。
それぞれ代表的な税金の種類は次のとおりです。
税金の種類 | |
---|---|
個人事業主 | 所得税 住民税 個人事業税 消費税 など |
法人 | 法人税 法人住民税 法人事業税 消費税 など |
また、税率や税制上の優遇措置も異なるため、飲食店を経営する際はどちらの形態で経営した方が自身にとって得になるかを慎重に検討する必要があります。
個人事業主にかかる税金
個人事業主の場合、主な税金として所得税や住民税、個人事業税、消費税があります。
それぞれの特徴は以下のとおりです。
- 所得税:事業で得た利益に対して課せられる税金。所得に応じて税率が変動
- 住民税:前年の所得に基づいて計算される。都道府県民税と市町村民税の合計額を納付
- 個人事業税:事業の種類や所得に応じて課される税金
- 消費税:売上に対して課される税金。一定の条件を満たすと免除される
通常、これらの税金は確定申告を行って適切に納付する必要があります。
法人にかかる税金
法人として飲食店を経営する場合、法人税や法人住民税、法人事業税、消費税などが課税されます。
- 法人税:法人の所得に対して課せられる税金。資本金や所得金額によって税率が異なる
- 法人住民税:法人の所在地に基づいて課される税金。都道府県民税と市町村民税の合計額を納付
- 法人事業税:事業の種類や所得に応じて課税される税金
- 消費税:売上に対して課される税金。一定の条件を満たすと免除される
法人の場合、税務申告は個人事業主よりも複雑になるため、税理士などの専門家への相談を検討しましょう。
個人事業主と法人の両方にかかる税金
個人事業主と法人の両方に課税される税金は消費税です。
消費税は商品の販売やサービスの提供に対して課税される税金で、原則として全ての事業者が納税義務を負います。
飲食店であれば売上時に預かった消費税額から仕入れ時に支払った消費税額を差し引いて計算されます。
ただし、免税事業者となる条件を満たしている場合は消費税を納付する必要はありません。
また、個人事業主と法人のどちらの場合でも、従業員を雇用している場合は源泉所得税や住民税の徴収、および納付が必要です。
飲食店における消費税とは?
飲食店経営において、消費税は特に注目すべき税金です。
売上に対して課税されるため、納税義務の有無や計算方法について正しく理解しておかなければなりません。
消費税の納税義務は事業者の規模や売上高によって異なり、免税事業者となる要件を満たせば消費税の納税義務は免除されます。一方で、課税事業者となった場合は適切な計算を行い期限内に納付する必要があります。
ここからは、具体的に消費税の納税義務が発生する条件や還付を受けられるケースについて見ていきましょう。
消費税の納税義務が発生する条件
消費税の納税義務は、基準期間(原則として前々年)における課税売上高が1,000万円を超える場合に発生します。
ただし、特定期間(原則として前年の1月1日から6月30日)の課税売上高が1,000万円を超えた場合も納税義務が生じます。
また、新設法人の場合は資本金が1,000万円以上であると設立当初から課税事業者です。
免税事業者となる条件を満たさない限り、消費税の納税義務を免れることはできず、正しく税金を納付しなければなりません。そのため、売上高を常に把握し納税義務の有無を判断する必要があります。
消費税の還付が受けられるケース
消費税は、売上時に預かった消費税額から、仕入れ時に支払った消費税額を差し引いて計算します。
この時、仕入れ時に支払った消費税額が売上時に預かった消費税額を上回った場合、その差額が還付されることがあります。
例えば、開業時など多額の設備投資を行った場合、仕入れに係る消費税額が多くなるため還付を受ける可能性が高まります。
また、課税事業者が輸出取引を行った場合も、輸出免税という制度により消費税の還付を受けることができます。
ただし、還付を受けるためには一定の手続きが必要となるため事前に確認しておくことが大切です。
飲食店における消費税の2種類の計算方式
消費税の納付額を計算する方法には、原則課税方式と簡易課税方式の2種類があります。
どちらの計算方式を選択するかで納税額が変わってくるため、慎重に選択する必要があります。
①原則課税方式の計算
原則課税方式は、売上時に預かった消費税額から、仕入れ時に支払った消費税額を差し引いて計算する方法です。
売上にかかる消費税額は課税売上高に消費税率を掛けて算出します。一方、仕入れにかかる消費税額は課税仕入れ高に消費税率を掛けて算出します。
原則課税方式では実際に支払った消費税額を正確に把握する必要があるため、日々の取引を記録しておくことが重要です。
原則課税方式はより正確な納税額を計算できる反面、経理処理が煩雑になるというデメリットもあります。
②簡易課税方式の計算
簡易課税方式は、売上高に一定のみなし仕入れ率を掛けて仕入れに係る消費税額を計算する方法です。
みなし仕入れ率は事業の種類によって異なり、飲食店の場合は原則として60%です。(提供業態や店舗の状況、事業区分により変わります)
例えば、年間の課税売上高が3,000万円の場合、みなし仕入れ額は1,800万円と計算されます。
簡易課税方式は原則課税方式に比べて計算が簡単であるため経理処理の負担を軽減できます。ただし、実際の仕入れに係る消費税額がみなし仕入れ額よりも大きい場合でも還付を受けることはできません。
なお、簡易課税方式は基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択できます。
そのほか、制度の適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄税務署長に提出する必要があります。
一度、簡易課税方式を選択すると、原則として2年間は継続して適用が必要です。
飲食店が知っておくべき軽減税率制度のポイント
軽減税率制度は、消費税率が10%と8%の2種類に分かれる制度です。
消費税率が10%に引き上げられた際、食料品や新聞など一部の品目に対して消費税率を8%に据え置く措置が取られました。
軽減税率制度において、特に飲食店経営者が知っておくべきポイントは次の3つです。
- テイクアウトと店内飲食は税率が異なる
- 栄養ドリンクやアルコールは軽減税率の対象外
- 残り物の持ち帰りも軽減税率の対象外
飲食店経営者は軽減税率の対象となる品目と対象外となる品目を正確に把握し、適切な税率を適用する必要があります。それぞれの詳細について解説します。
ポイント①テイクアウトと店内飲食は税率が異なる
軽減税率制度はテイクアウトと店内飲食で税率が異なるので注意が必要です。
テイクアウトは軽減税率の対象となり消費税率は8%となります。一方、店内飲食は標準税率の対象となり、消費税率は10%となります。
これはテイクアウトは「飲食料品の譲渡」に該当し、店内飲食は「食事の提供」に該当すると解釈されるためです。
飲食店では顧客がどちらのサービスを利用するかによって、税率を使い分ける必要があります。
そのため、会計システムを導入するなど税率を間違えないための対策を講じておくことが大切です。
ポイント②栄養ドリンクやアルコールは軽減税率の対象外
軽減税率制度では、栄養ドリンクやアルコール類は軽減税率の対象外となり10%の標準税率が適用されます。
これは栄養ドリンクやアルコール類が、食料品ではなく嗜好品と解釈されるためです。
飲食店ではこれらの商品を販売する際には、税率を間違えないように注意が必要です。また、セットメニューなどで、食料品と軽減税率対象外の商品を一緒に提供する場合は、それぞれの税率を分けて計算する必要があります。
軽減税率の対象となるか否かは商品の性質によって判断されるため、迷う場合は税理士などに相談すると良いでしょう。
ポイント③残り物の持ち帰りも軽減税率の対象外
店内で飲食した料理の残り物を持ち帰る場合は、軽減税率の対象外となり10%の標準税率が適用されます。
残り物の持ち帰りは、あくまでも店内で提供された食事だからです。
店内で飲食した料理を持ち帰る場合は、テイクアウトとは異なる税率で会計処理を行う必要があります。
例えば、弁当などを持ち帰る場合は8%の軽減税率ですが、店内で提供された料理の残り物を持ち帰る場合は10%の標準税率となります。
また、持ち帰りの際の容器代なども課税対象となる場合があるため確認が必要です。
飲食店のための税金対策
飲食店経営を安定させ事業を成長させるために、税金対策は大切な取り組みです。適切な税金対策を行うことで、余計な税金の支払いを減らし手元に残る資金を増やすことができます。
飲食店が行える主な税金対策・節税には次の4つがあります。
- 設備や事業へ投資する
- 青色申告を選ぶ
- 法人化する
- 共済制度に加入する
それぞれ詳しく解説します。
節税①設備や事業へ投資する
飲食店の税金対策のひとつとして、設備投資や事業投資が挙げられます。
飲食店の場合、厨房設備の購入や店舗の改修など事業に必要な設備投資を行うことで、減価償却費として経費計上できます。また、人材育成のための費用や新メニュー開発のための費用なども経費として計上できます。
これらの経費計上により、利益を圧縮し課税対象となる所得を減らすことが可能です。
ただし、経費として計上できる範囲には規定があるため、税理士などの専門家によく確認することが重要です。
節税②青色申告を選ぶ
個人事業主の所得税の確定申告には、白色申告と青色申告の2種類があります。
青色申告は、複式簿記による記帳が必要になりますが、さまざまな税制上の優遇措置を受けることができます。
例えば、青色申告特別控除として最大65万円の所得控除を受けることができ、所得税を大幅に減らすことが可能です。
また、赤字が出た場合には損失を3年間繰り越すことができるため、翌年以降の税負担を軽減できます。
青色申告は白色申告に比べて手間がかかりますが、節税効果は大きいため積極的に活用することをおすすめします。
節税③法人化する
個人事業主として飲食店を経営している場合、法人化することで節税効果を得られることがあります。
法人化することで、所得税ではなく法人税が課税されるようになります。法人税率は所得税率よりも低い場合があるため、所得が多い場合は法人化の方が税負担的に有利になりやすいです。
また、法人化することで経費として認められる範囲が広がるなど、税制上の優遇措置を受けることもできます。
さらに、会社経営によって社会的な信用度が高まり、資金調達や人材採用が有利になるというメリットもあります。
節税④共済制度に加入する
個人事業主や法人の経営者は、共済制度に加入することで節税効果を得ることができます。
例えば、小規模企業共済は積み立てた金額が全額所得控除の対象となるため、所得税を減らすことが可能です。
また、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先が倒産した場合に貸付を受けることができるだけでなく、掛金が損金算入できるため法人税の節税にもつながります。
これらの共済制度は節税効果だけでなく、万が一のリスクに備えることもできるため、積極的に加入を検討しましょう。ただし、共済制度には加入条件や掛金の上限などがあるため事前に確認しておくことが大切です。
まとめ
飲食店経営における税金対策は事業の安定と成長に不可欠です。
税金の種類や計算方法、節税対策を正しく理解し、適切な対応を行いましょう。
また、個人事業主と法人では税金の種類や計算方法が異なるため、自身の経営状況に合わせて最適な選択をする必要があります。
飲食店経営の税金でお困りごとがあれば、野村税理士事務所にご相談ください。
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