「開業したけれど、初めての確定申告は何から始めればいいの?」「青色申告って本当に得なの?」「インボイスに登録したら消費税はどうなる?」
独立・開業して1年目のフリーランスや個人事業主の方から、当事務所にもこうしたご相談が多く寄せられます。
結論から言うと、開業したら「開業届」と「青色申告承認申請書」をセットで出し、複式簿記で記帳してe-Taxで申告すれば、最大65万円の青色申告特別控除を受けられます。あわせて、インボイス登録をした方は消費税の申告が必要になり、2年目以降は予定納税や住民税・事業税の支払いも始まります。
令和8年分の確定申告の期間は、2027年2月16日(火)から3月15日(月)までです。この記事では、開業1年目の確定申告までの流れと、損をしないためのポイントを福岡の税理士が解説します。
この記事でわかること
- 開業届・青色申告承認申請書などの届出と期限
- 青色申告と白色申告の違い、65万円控除の要件(令和9年分以後の見直しも)
- 令和8年分のルールでの所得税の計算例
- 経費と家事按分・開業費の考え方
- インボイス登録後の消費税(2割特例と令和9・10年分の3割の特例)
- 2年目以降の予定納税・住民税・事業税と、年間スケジュール
開業から初めての確定申告までの流れ

開業1年目にやることは、「届出を出す」「日々の取引を記帳する」「年が明けたら決算をして申告する」の3つです。最初に出す届出で、その年の申告方法が決まります。
| 届出 | 提出期限 | ポイント |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届) | 事業を開始した日から1か月以内 | 提出しなくても罰則はないが、屋号口座の開設や融資で控えを求められることが多い |
| 所得税の青色申告承認申請書 | 開業日から2か月以内(1月1日〜15日の開業は3月15日まで) | 期限を過ぎると、その年は白色申告になる |
| 青色事業専従者給与に関する届出書 | 給与を支払う年の3月15日まで(開業日が1月16日以後なら開業日から2か月以内) | 家族に給与を払う場合に必要 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 開設から1か月以内 | 従業員や家族に給与を支払う場合 |
| 適格請求書発行事業者の登録申請書 | 登録を受けたい日に合わせて申請 | 登録すると消費税の申告が必要になる |
※国税庁 個人事業の開業届出・青色申告承認申請手続をもとに作成。
開業届と青色申告承認申請書は、e-Taxや会計ソフトの開業手続きサービスを使えば、自宅から同時に提出できます。届出の控え(受付結果)は、銀行口座の開設や、国民健康保険・保育園の手続きなどで使うことがあるので保管しておきましょう。

青色申告と白色申告の違い|65万円控除の要件
| 項目 | 青色申告 | 白色申告 |
|---|---|---|
| 事前の届出 | 青色申告承認申請書の提出が必要 | 不要(開業届のみ) |
| 特別控除 | 65万円・55万円・10万円 | なし |
| 赤字の繰越 | 翌年以後3年間繰り越せる | できない(災害損失などを除く) |
| 家族への給与 | 青色事業専従者給与として経費にできる(届出が必要) | 事業専従者控除(配偶者86万円・その他50万円が上限) |
| 少額の減価償却資産 | 30万円未満を一括で経費にできる特例(年300万円まで) | 10万円未満のものは経費にできる |
| 帳簿の作り方 | 原則、複式簿記(10万円控除は簡易簿記で可) | 簡易な記帳 |
青色申告特別控除の要件(令和8年分)
| 控除額 | 主な要件 |
|---|---|
| 65万円 | 複式簿記で記帳し、貸借対照表・損益計算書を添付して期限内に申告。さらにe-Taxでの申告、または仕訳帳・総勘定元帳の優良な電子帳簿保存 |
| 55万円 | 上記のうち、e-Tax・電子帳簿保存の要件を満たさない場合 |
| 10万円 | 簡易な帳簿での記帳の場合、または期限後に申告した場合 |
65万円控除を受けるには、期限内(3月15日まで)の申告が必要です。期限を1日でも過ぎると10万円控除になってしまうので注意しましょう(国税庁 タックスアンサーNo.2072)。
なお、令和8年度税制改正では、令和9年分以後の青色申告特別控除について、e-Tax提出+仕訳帳・総勘定元帳の電子保存で75万円、55万円控除はe-Tax提出を要件に加えて65万円とする見直しが盛り込まれています(財務省 令和8年度税制改正の大綱)。開業時から会計ソフトとe-Taxを前提にしておくと、来年以降も有利な控除を受けやすくなります。
令和8年分の所得税の計算例|青色65万円控除でいくら違う?

開業1年目のフリーランス(在宅のデザイナー)を例に、所得と税金の計算イメージを見てみましょう。
| 項目 | 金額(年間) |
|---|---|
| 売上(業務委託の報酬) | 480万円 |
| 外注費・ソフトウェア利用料 | ▲40万円 |
| 通信費・電気代・家賃の家事按分分 | ▲45万円 |
| パソコン・機材(少額のもの) | ▲25万円 |
| 交通費・打ち合わせ費 | ▲15万円 |
| その他(書籍・会費など) | ▲10万円 |
| 青色申告特別控除 | ▲65万円 |
| 事業所得 | 280万円(白色申告なら345万円) |
青色申告特別控除の65万円は、経費とは別に所得から差し引ける控除です。国民健康保険料・国民年金保険料を年60万円、令和8年分の基礎控除104万円(合計所得489万円以下)として計算すると、所得税は白色申告で92,400円、青色申告で59,200円となり、約3.3万円の差です。住民税(所得割おおむね10%)も約6.5万円下がるため、合計で約10万円の差になります。
さらに所得が増えて税率が20%の区分になると、65万円控除の効果は所得税だけで約13万円(復興特別所得税を含めるとやや多く)になります。所得が低いうちも、国民健康保険料が所得に応じて決まる点を考えると、青色申告のメリットは小さくありません。
- 基礎控除は合計所得489万円以下なら104万円、489万円超655万円以下なら67万円
- 国民健康保険料・国民年金保険料は経費ではなく「社会保険料控除」
- 65万円控除は期限内の申告とe-Tax(または電子帳簿保存)が条件
経費と家事按分・開業費の考え方
- 国民健康保険料・国民年金保険料(社会保険料控除へ)
- 所得税・住民税、生活費
- 10万円以上の備品(原則は減価償却)
- 根拠のない家賃の全額計上
- 仕事用のパソコン・ソフト・通信費・書籍
- 取引先との打ち合わせ費・交通費・外注費
- 自宅兼事務所の家賃・電気代の事業使用分
- 開業前の準備費用(開業費)
家事按分の具体例(在宅ワークの場合)
| 費用 | 按分の基準の例 | 計算例 |
|---|---|---|
| 家賃・住宅ローンの利息 | 仕事部屋の床面積÷全体の床面積 | 家賃月10万円×20% = 月2万円(年24万円) |
| 電気・ガス・水道 | 使用時間や床面積の割合 | 電気代月1.2万円×30% = 月3,600円 |
| インターネット・携帯電話 | 事業で使う時間や通信量の割合 | 月8,000円×50% = 月4,000円 |
| 自家用車の費用 | 走行距離のうち事業で使った割合 | 走行記録をつけて計算 |
割合を決めた根拠(間取り図、利用時間の記録など)は残しておきましょう。なお、住宅ローン控除を受けている場合、自宅の一部を事業用にすると、その部分が控除の対象外になることがあります。
開業費と少額の備品
開業前に準備のために使った費用(名刺・ホームページ制作・市場調査・開業前の打ち合わせの交通費など)は「開業費」として計上できます。開業費は繰延資産で、開業した年に全額を経費にすることも、翌年以後に分けて経費にすることもできます(任意償却)。パソコンなどの備品は、10万円未満なら全額その年の経費、青色申告なら30万円未満のものを年300万円まで一括で経費にできる特例があります(国税庁 タックスアンサーNo.2090等)。
インボイスと消費税|2割特例から3割の特例へ

インボイス(適格請求書発行事業者)の登録をすると、売上が1,000万円以下でも消費税の申告が必要です。個人の消費税の申告期限は、翌年の3月31日です。
登録をきっかけに課税事業者になった個人事業者は、納める消費税を売上の消費税の2割にできる「2割特例」を、2026年9月30日を含む課税期間(個人は2026年分=令和8年分)まで使えます(国税庁 2割特例の案内)。その後は、令和8年度税制改正で、免税事業者からインボイス登録したこと等で課税事業者になった個人事業者について、令和9年分・令和10年分は売上の消費税の3割を納付税額とする特例が設けられました(法人は対象外)。
| 方式 | 納める消費税の計算 | 税抜売上500万円・サービス業の例 |
|---|---|---|
| 2割特例(令和8年分まで) | 売上の消費税 × 20% | 10万円 |
| 3割の特例(令和9・10年分) | 売上の消費税 × 30% | 15万円 |
| 簡易課税(第五種・サービス業等) | 売上の消費税 ×(1 − みなし仕入率50%) | 25万円 |
| 本則課税 | 売上の消費税 − 実際の経費・仕入の消費税 | 経費の内容しだい |
2割・3割の特例は、申告書にその旨を記載するだけで使え、事前の届出は不要です。一方、特例の期間が終わった後に簡易課税を使うには、届出書の提出が必要です。仕入や外注が多い業種では本則課税のほうが有利になることもあるため、早めに試算しておきましょう。
▶ あわせて読みたい:2026年度(令和8年度)税制改正まとめ|個人・法人の主な変更点
2年目以降に注意したい予定納税・住民税・事業税
| 支払い | 時期の目安 | ポイント |
|---|---|---|
| 所得税・復興特別所得税 | 翌年3月15日まで(振替納税は4月下旬ごろ引落し) | 確定申告で納付 |
| 所得税の予定納税 | 7月・11月 | 前年の申告納税額(予定納税基準額)が15万円以上の場合 |
| 住民税 | 翌年6月から4回に分けて納付 | 確定申告の内容をもとに市区町村が計算 |
| 個人事業税 | 8月・11月 | 事業主控除290万円を超える所得がある法定業種が対象 |
| 国民健康保険料 | 6月ごろから分割で納付 | 前年の所得により決まる |
| 国民年金保険料 | 毎月(前納も可) | 全額が社会保険料控除の対象 |
| 消費税(課税事業者の場合) | 翌年3月31日まで | インボイス登録者は売上1,000万円以下でも申告 |
※国税庁 予定納税等をもとに作成。個人事業税・住民税・国民健康保険料の納付時期は自治体により異なる場合があります。
開業1年目は、前年の所得をもとに計算される住民税や国民健康保険料が少なく、手元にお金が残りやすい年です。ところが2年目になると、1年目の所得に対する所得税・住民税・国民健康保険料・個人事業税が次々に届き、さらに予定納税も始まることがあります。
所得の額によっては、これらの合計が所得の2〜3割になります。売上が入るたびに、その2〜3割を税金用の口座に分けておくと、納税時期に慌てません。

開業1年目の書類・帳簿と年間スケジュール
フリーランスの年間スケジュール(令和8年分)
集めておきたい書類と帳簿
- 開業届・青色申告承認申請書の控え
- 売上の請求書、報酬の入金がわかる通帳・明細(源泉徴収された額がわかるもの)
- 経費の領収書、クレジットカード・電子マネーの明細
- 家賃・光熱費・通信費の契約書や請求書(家事按分の根拠)
- 国民健康保険・国民年金の保険料の証明書
- 小規模企業共済・iDeCoの掛金の証明書
- 開業年に給与があった場合は、前職の源泉徴収票
複式簿記での記帳は、65万円控除の要件です。会計ソフトを使えば、通帳やカードの取引を取り込んで自動で仕訳できるため、簿記の知識がなくても対応できます。売上から源泉徴収(10.21%)されている報酬は、確定申告で精算すると還付になることもあるので、取引先ごとに源泉徴収額を確認しておきましょう。
開業1年目のやりがちな失敗と法人化のタイミング

やりがちな失敗
- 開業届は出したのに青色申告承認申請書を出し忘れて、白色申告になってしまう
- 3月15日を過ぎて申告し、65万円控除が10万円になってしまう
- 家賃を全額経費にしてしまい、按分の根拠を説明できない
- 個人の買い物と事業の支出が混ざって判断がつかなくなる(事業用の口座・カードを分けるのがおすすめ)
- インボイス登録したのに、消費税の申告・納税資金を考えていない
- 納税資金を使い切ってしまい、2年目の納税が苦しくなる
法人化を考えるタイミング
- 所得が一定額(目安として800万円〜1,000万円程度)を超えてきた
- 取引先から法人であることを求められる
- 従業員を雇い、社会保険に加入する必要が出てきた
- 事業の信用力を高めて、融資や大きな取引を目指したい
法人化すると、役員報酬による所得の分散や、経費の範囲が広がるなどのメリットがありますが、社会保険料の負担、法人住民税の均等割(赤字でもかかります)、会計・申告の手間といったコストも増えます。個人のまま続けた場合と法人化した場合の税額・手取りを試算したうえで判断することをおすすめします。
開業1年目の確定申告でよくある質問

開業届を出し忘れていました。どうすればいいですか?
気づいた時点で提出しましょう。ただし、青色申告承認申請書の期限を過ぎていると、その年は白色申告になります。翌年から青色申告にする場合は、翌年3月15日までに申請書を提出します。
開業届を出すと、会社にバレますか?
開業届の提出自体が勤務先に知られることはありません。ただし、会社員を続けながら副業で開業する方は、住民税の通知から知られる可能性があります。確定申告書の第二表で、住民税の徴収方法を「自分で納付(普通徴収)」にする対応が一般的です。詳しくは副業がある会社員の確定申告をご覧ください。
領収書がない支出は、経費にできませんか?
領収書がなくても、支払いの事実と内容が説明できれば経費にできます。交通費や公共料金の自動引き落としなどは、通帳やカード明細、出金伝票、メモで内容を記録しておきましょう。
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まとめ|開業1年目は「届出・記帳・納税資金」の3点セット

- 開業届は開業から1か月以内、青色申告承認申請書は原則2か月以内に提出
- 複式簿記+期限内申告+e-Taxで65万円控除。令和9年分以後は75万円控除も
- 令和8年分は基礎控除104万円(合計所得489万円以下)で計算
- インボイス登録者は2割特例(令和8年分まで)→3割の特例(令和9・10年分)
- 2年目は住民税・事業税・国保・予定納税に備えて、売上の一部を取り分ける
開業1年目の確定申告は、最初の届出と記帳のしくみ作りで、その後の手間と税金が大きく変わります。不安な点は、申告書を作る前にご相談ください。
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個人の確定申告の全体像は 個人の確定申告|福岡の税理士 で解説しています。
参考資料
国税庁 個人事業の開業届出・廃業届出等手続 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
国税庁 所得税の青色申告承認申請手続 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm
国税庁 タックスアンサーNo.2070 青色申告制度 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2070.htm
国税庁 タックスアンサーNo.2072 青色申告特別控除 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
国税庁 2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_2wari.htm
国税庁 タックスアンサーNo.2040 予定納税 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2040.htm
財務省 令和8年度税制改正の大綱 https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/index.html

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野村税理士事務所代表 野村真一
税理士業界23年、野村税理士事務所代表でfreee認定アドバイザー。日本税理士会連合会、九州北部税理士会所属。認定経営革新等支援機関の認定事業者として事業再構築補助金の申請支援を行う。
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