「株を売って利益が出たけれど、特定口座なら申告しなくていいの?」「損をした年は何もしなくていい?」「家を売ったら税金はどれくらい?」
株式や投資信託、土地・建物を売った翌年の確定申告の時期には、こうしたご相談が増えます。
結論から言うと、株は特定口座(源泉徴収あり)なら原則申告不要ですが、損失の繰越や複数口座の損益通算をしたいときは申告したほうが有利です。不動産は、売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで税率が約2倍変わり、マイホームの3,000万円控除などの特例は、税額がゼロでも確定申告しなければ使えません。
令和8年分の確定申告の期間は、2027年2月16日(火)から3月15日(月)までです。この記事では、株と不動産の譲渡所得の確定申告のポイントを、福岡の税理士が計算例とあわせて解説します。

この記事でわかること
- 口座の種類ごとの株式の確定申告の要否
- 申告したほうが有利になるケース(損益通算・損失の3年繰越)
- NISA口座と特定口座の税金の違い
- 不動産の譲渡所得の計算と、長期・短期の税率の違い
- マイホームの3,000万円控除・軽減税率、相続した空き家の特例
- 申告が必要かどうかの早見表、必要書類とスケジュール
株式を売ったときの確定申告|口座の種類で変わる
| 口座の種類 | 確定申告 | ポイント |
|---|---|---|
| 特定口座(源泉徴収あり) | 原則不要 | 証券会社が20.315%を天引き。申告したほうが有利な場合は申告できる |
| 特定口座(源泉徴収なし) | 利益があれば原則必要 | 「特定口座年間取引報告書」で簡単に申告できる |
| 一般口座 | 利益があれば必要 | 取得費・譲渡価額を自分で計算する |
| NISA口座 | 不要 | 譲渡益・配当は非課税。ほかの口座との損益通算・繰越しはできない |
上場株式などの譲渡益には、所得税15.315%(復興特別所得税を含む)と住民税5%の、合計20.315%が課税されます(申告分離課税。国税庁 タックスアンサーNo.1463)。給与などとは別に税額を計算するため、所得税の累進税率は関係ありません。
源泉徴収なしの特定口座や一般口座で利益が出た方は、会社員でも原則として申告が必要です。年末調整を受けている会社員で、給与以外の所得の合計が20万円以下なら所得税の申告は不要になる場合がありますが、住民税の申告は別に必要です。
株式の譲渡益・損失の計算例
| 銘柄 | 売却損益 |
|---|---|
| A社株 | +100万円 |
| B社株 | ▲60万円 |
| 通算後の譲渡所得 | 40万円 |
| 税額(40万円×20.315%) | 81,260円 |
A社株の利益とB社株の損失は、同じ年の上場株式等の譲渡所得どうしで通算できます。同じ証券会社の特定口座内なら自動で通算されますが、証券会社が違う場合は確定申告で通算します。
申告したほうが有利なケース|損益通算と損失の3年繰越

- 損失を繰り越す:上場株式等の譲渡損失は、確定申告をすれば翌年以後3年間繰り越して、将来の利益や配当と相殺できます(繰り越す間は利益がなくても毎年の申告が必要)
- 複数の証券会社の損益を通算する:A社の口座で利益、B社の口座で損失が出た場合、申告で相殺して源泉徴収された税金を取り戻せます
- 配当と通算する:譲渡損失と、申告分離課税を選んだ上場株式等の配当・分配金を相殺できます
上のグラフは、1年目に100万円の損失、2年目に60万円、3年目に80万円の利益が出たモデルです。1年目に申告して損失を繰り越すと、2年目の利益60万円は全額相殺、3年目は残りの損失40万円を差し引いた40万円だけに課税され、繰り越さない場合より合計203,150円税金が少なくなります(国税庁 タックスアンサーNo.1474)。
申告すると不利になることもある
一方で、源泉徴収ありの特定口座の利益や配当を申告すると、合計所得金額が増え、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、配偶者控除・扶養の判定、令和8年分の基礎控除(合計所得489万円以下で104万円)などに影響することがあります。令和6年度分以後の住民税は、所得税で申告した内容がそのまま住民税にも反映される仕組みになっているため、「所得税は申告、住民税は申告不要」という使い分けはできなくなりました。申告するかどうかは、税金と保険料の全体を試算して判断しましょう。

NISA口座と特定口座の税金の違い
- 譲渡益・配当に20.315%の税金がかかる
- 損失はほかの口座の利益と通算できる
- 申告すれば損失を3年間繰り越せる
- 譲渡益・配当が非課税(金融庁 NISA特設ウェブサイト)
- 年間投資枠360万円(つみたて120万円・成長240万円)、生涯の非課税保有限度額1,800万円
- 損失は「なかったもの」とされ、通算・繰越しはできない
NISA口座で保有している株式や投資信託は、売っても確定申告は不要です。そのかわり、NISA口座で出た損失は税務上ないものとされ、特定口座の利益と相殺することはできません。
値上がりが見込める長期保有の銘柄はNISA口座で、短期売買や損失が出る可能性の高い取引は特定口座で、といった使い分けも考えられます。ただし、投資判断そのものはご自身の責任で行ってください。税金の面では、口座の種類ごとの扱いを知っておくと役立ちます。
不動産を売ったときの譲渡所得の計算と税率

土地・建物を売った利益(譲渡所得)は、ほかの所得と分けて税額を計算する「分離課税」です(国税庁 タックスアンサーNo.3202)。利益が出た場合は確定申告が必要です。
| 区分 | 判定 | 税率(所得税・復興特別所得税+住民税) |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 売った年の1月1日時点で所有期間5年超 | 20.315%(15.315%+5%) |
| 短期譲渡所得 | 売った年の1月1日時点で所有期間5年以下 | 39.63%(30.63%+9%) |
所有期間は「実際に持っていた期間」ではなく、売った年の1月1日時点で判定します。たとえば2021年6月に買った物件を2026年中に売ると、2026年1月1日時点では4年7か月で短期譲渡です。2027年1月以後に売れば、2027年1月1日時点で5年7か月となり長期譲渡になります。
譲渡所得の計算と計算例
譲渡所得は「売った金額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除」で計算します。
| 区分 | 含まれるものの例 |
|---|---|
| 取得費 | 購入代金(建物は減価償却費相当額を差し引いた金額)、購入時の仲介手数料、登録免許税、不動産取得税、印紙税、リフォーム費用(資本的支出) |
| 譲渡費用 | 売却時の仲介手数料、印紙税、売却のための測量費、売るための建物の取り壊し費用、借家人への立退料 |
【計算例】投資用マンションを3,000万円で売却し、取得費(償却後)が1,800万円、譲渡費用が120万円の場合、譲渡所得は1,080万円です。長期なら1,080万円×20.315%=約219万円、短期なら1,080万円×39.63%=約428万円で、所有期間によって約2倍の差が出ます。
購入時の契約書がなく取得費がわからない場合は、売った金額の5%を取得費とする「概算取得費」を使えますが、実際の取得費より小さくなることが多く、税額が大きくなりがちです。購入時の契約書・領収書・通帳の記録などを、まずは探しましょう。
- 不動産の譲渡損失は、原則として給与などほかの所得と損益通算できない(マイホームの一定の特例を除く)
- 譲渡所得も「合計所得金額」に含まれ、基礎控除や扶養の判定、翌年の保険料に影響する
- 建物の取得費は、事業用なら償却後の帳簿価額、自宅なら非事業用の償却率で減価償却費相当額を計算
マイホームを売ったときの特例|3,000万円控除と軽減税率

| 特例 | 内容 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 3,000万円の特別控除 | 譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける | 自分が住んでいた家(住まなくなってから3年目の年末までの売却)、親子・夫婦など特別な関係者への売却でない、前年・前々年に同じ特例等を使っていない |
| 軽減税率の特例 | 課税長期譲渡所得6,000万円以下の部分の税率が14.21% | 売った年の1月1日時点で所有期間10年超。3,000万円控除と併用できる |
| 買換えの特例 | 譲渡益への課税を将来に繰り延べる | 所有期間10年超・居住期間10年以上など。3,000万円控除とは選択 |
| 譲渡損失の損益通算・繰越控除 | 売却損をほかの所得と通算し、3年間繰り越せる | 買換えや住宅ローン残高など一定の要件 |
※国税庁 タックスアンサーNo.3302・No.3305等をもとに作成。
たとえば、5,000万円で売却し、取得費が2,000万円、譲渡費用が150万円のマイホームなら、譲渡益は2,850万円で、3,000万円控除により課税される所得はゼロです。ただし、この特例を使うには、たとえ税額がゼロでも確定申告が必要です。
所有期間10年超のマイホームで譲渡益が4,000万円の場合は、3,000万円控除後の1,000万円に軽減税率14.21%がかかり、税額は約142万円です(通常の長期税率20.315%なら約203万円)。
注意したいのは、住宅ローン控除との関係です。新しい家に入居した年とその前2年・後3年の間に旧居で3,000万円控除などを使うと、新居の住宅ローン控除が受けられません。買い換えのときは、どちらが有利かを必ず試算しましょう。
相続した不動産・空き家を売るときの特例
| 項目 | 被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除の主な要件 |
|---|---|
| 売却の期限 | 令和9年12月31日までの売却で、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで |
| 控除額 | 最高3,000万円(令和6年1月1日以後の売却で相続人が3人以上なら1人2,000万円まで) |
| 家屋の要件 | 昭和56年5月31日以前に建築、区分所有建物でない、相続開始直前に被相続人以外の居住者がいない など |
| 売却代金 | 1億円以下 |
| 耐震・取壊し | 売却時に耐震基準を満たすか、取り壊して更地で売る。令和6年以後は、売却の翌年2月15日までに買主が耐震改修・取壊しをする場合も対象 |
※国税庁 タックスアンサーNo.3306をもとに作成。相続時から売却時まで事業・貸付け・居住に使っていないことも必要です。
相続した不動産の取得費は、原則として被相続人(亡くなった方)の取得費と取得時期を引き継ぎます。このため、親が昔に買った土地は所有期間5年超の長期譲渡になることが多い一方、取得費の資料が残っておらず概算取得費(5%)になりやすい点に注意が必要です。
また、相続税を納めた方が、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(おおむね3年10か月以内)に相続財産を売った場合は、納めた相続税のうち一定額を取得費に加算できる「取得費加算の特例」があります(国税庁 タックスアンサーNo.3267)。空き家の3,000万円控除とは選択になるため、どちらが有利かを比べて選びます。

譲渡所得の申告が必要かどうかの早見表
| ケース | 確定申告 |
|---|---|
| 特定口座(源泉徴収あり)で利益が出た | 原則不要。損益通算や繰越控除をしたい場合は申告が有利 |
| 特定口座(源泉徴収なし)・一般口座で利益が出た | 必要 |
| 特定口座で損失が出た | 申告すると翌年以後3年間の繰越控除ができる |
| 複数の証券会社の口座で利益と損失が出た | 通算するなら申告が必要 |
| NISA口座の売却 | 不要(損益通算・繰越控除は不可) |
| 自宅を売って利益が出た | 3,000万円控除を受けるためにも申告が必要 |
| 自宅を売って損失が出た | 一定の要件を満たせば損益通算・繰越控除の特例あり(申告が必要) |
| 投資用の不動産・相続した不動産を売った | 利益が出たら申告が必要。特例を使う場合も申告 |
| 株式の配当金(源泉徴収あり) | 原則不要。配当控除や損益通算をしたい場合は申告 |
売却した年の翌年に、申告が必要かどうか迷ったときは、売却の契約書や特定口座年間取引報告書をお持ちのうえでご相談ください。
必要書類とスケジュール|売却のタイミングも意識して
譲渡所得の確定申告の流れ
必要書類チェックリスト
- 株式:特定口座年間取引報告書、一般口座の場合は取引明細書
- 不動産:売買契約書(売却時・取得時の両方)、仲介手数料などの領収書
- 取得費がわかる資料(購入時の契約書、リフォーム費用の領収書、通帳の記録など)
- 登記事項証明書、固定資産税の納税通知書
- 特例の適用に必要な書類(住民票の除票、戸籍の附票、被相続人居住用家屋等確認書など)
売却のタイミングで税額が変わる例
- 所有期間:売った年の1月1日時点で5年を超えていれば長期譲渡(20.315%)、5年以下なら短期譲渡(39.63%)
- マイホーム:住まなくなってから3年目の年末までに売ると、3,000万円控除を使える場合がある
- 相続した不動産:おおむね3年10か月以内の売却で取得費加算の特例、空き家特例は相続から3年目の年末まで
- 株式:年内に売った分がその年の損益になる(受渡日基準)。年末の売却は受渡日に注意
売却の契約を結ぶ前であれば、税金を見込んだうえで手取りを計算できます。売却の話が具体的になったら、契約前にお気軽にご相談ください。
譲渡所得の申告でありがちな失敗とよくある質問

ありがちな失敗
- 特定口座(源泉徴収あり)だからと思い込み、不動産や別の口座の譲渡益の申告を忘れる
- 損失が出た年に申告せず、繰越控除が使えなくなる
- マイホームの買い換えで、3,000万円控除と新居の住宅ローン控除を両方使えると思っていた
- 取得費の資料を探さず、概算取得費(5%)で申告して税金が高くなった
- 譲渡所得で合計所得が増え、扶養や保険料に影響することを見落とした
株で損をしました。申告しないとどうなりますか?
申告しなくても罰則はありませんが、損失を翌年以後に繰り越すことができません。翌年以降に利益が出る見込みがあるなら、損失の年に申告しておきましょう。
配当金も、株の損失と通算できますか?
上場株式等の配当所得は、確定申告で申告分離課税を選択すると、株式の譲渡損失と損益通算できます。ただし、申告分離課税を選ぶと配当控除は使えず、合計所得金額の増加で扶養や保険料に影響する場合があります。総合的に有利かどうかの判断が必要です。
大きな金額の不動産を売りました。ほかに注意する税金はありますか?
合計所得が非常に大きい方には、「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」(いわゆるミニマムタックス)があります。令和7年分以後、基準所得金額から3億3,000万円を差し引いた額に22.5%を掛けた額が通常の所得税額を上回る場合に差額を納める仕組みで、令和9年分以後は特別控除額1億6,500万円・税率30%に見直されます(財務省 令和8年度税制改正の大綱)。対象になるのはごく一部の方ですが、大型の売却を予定している方は事前に試算しておきましょう。
譲渡所得の申告はいつまでですか?
売却した年の翌年2月16日から3月15日までです(令和8年分は令和9年3月15日まで)。売却が決まったら、早めにご相談ください。
まとめ|株は「申告したほうが得か」、不動産は「所有期間と特例」

- 株は特定口座(源泉徴収あり)なら原則申告不要。損失の繰越・複数口座の通算は申告で
- 申告すると合計所得が増え、保険料や扶養・基礎控除に影響することもある
- 不動産は売った年の1月1日時点で所有期間5年超なら20.315%、5年以下なら39.63%
- マイホームの3,000万円控除・軽減税率、空き家特例は、税額ゼロでも申告が必要
- 取得費の資料は大切に。相続した不動産は被相続人の取得費を引き継ぐ
譲渡所得の申告は、口座の種類や所有期間、特例の要件によって結果が大きく変わります。とくに不動産は、契約前に税額を試算しておくことで、売却のタイミングや方法を選べることがあります。
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個人の確定申告の全体像は 個人の確定申告|福岡の税理士 で解説しています。賃貸中の物件の申告は不動産オーナーの確定申告をご覧ください。
参考資料
国税庁 タックスアンサーNo.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
国税庁 タックスアンサーNo.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1474.htm
国税庁 タックスアンサーNo.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
国税庁 タックスアンサーNo.3302 マイホームを売ったときの特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
国税庁 タックスアンサーNo.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
国税庁 タックスアンサーNo.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
金融庁 NISA特設ウェブサイト https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/index.html
財務省 令和8年度税制改正の大綱 https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/index.html

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野村税理士事務所代表 野村真一
税理士業界23年、野村税理士事務所代表でfreee認定アドバイザー。日本税理士会連合会、九州北部税理士会所属。認定経営革新等支援機関の認定事業者として事業再構築補助金の申請支援を行う。
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