「青色申告をしたいけれど、複式簿記は難しそう」「簡易簿記って何?帳簿は何を用意すればいいの?」「簡易簿記と複式簿記では、控除額はどのくらい違う?」
個人事業主として青色申告を始めるとき、多くの人が悩むのが帳簿のつけ方です。簿記の知識がないと、借方・貸方の仕訳が必要な複式簿記はハードルが高く感じられるかもしれません。
結論からお伝えすると、簡易簿記は、取引を1回だけ記録するシンプルな帳簿のつけ方で、青色申告なら10万円の特別控除が受けられます。ただし、複式簿記で記帳しe-Taxで申告すれば最大65万円(2027年分以後は要件を満たせば最大75万円)の控除になるため、会計ソフトを使えるなら複式簿記を選ぶほうが有利です。
この記事では、簡易簿記の意味と複式簿記との違い、必要な帳簿と記帳例、簡易簿記で青色申告するときの要件や注意点まで、福岡の税理士がわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 簡易簿記の意味と、複式簿記との違い
- 記帳方法ごとの青色申告特別控除額(2026年分と2027年分以後)
- 簡易簿記で必要な5つの帳簿と記帳例
- 簡易簿記で青色申告するときの注意点と、複式簿記への移行の考え方
簡易簿記とは?

簡易簿記とは、お金の出入りなどの取引を、帳簿に1回だけ記録していく簡単な帳簿のつけ方です。家計簿やお小遣い帳と同じような感覚で、日付・内容・金額を記録していきます。取引を「原因」と「結果」の2つの面から記録する複式簿記に対して、単式簿記とも呼ばれます。
国税庁は、青色申告をする人の記帳方法について、原則は正規の簿記(一般的には複式簿記)としつつ、「現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳のような帳簿を備え付けて簡易な記帳をするだけでもよい」としています(国税庁 タックスアンサーNo.2070)。この「簡易な記帳」が、一般に簡易簿記と呼ばれている方法です。
現金の出入りだけを記録するわけではない
簡易簿記は「現金の入出金だけを記録する方法」と説明されることがありますが、青色申告の簡易帳簿では、現金の出入りのほかに、掛けで売った売上(売掛金)、掛けで仕入れた代金(買掛金)、パソコンや車などの固定資産も、それぞれの帳簿に記録します。現金出納帳だけつけていれば足りるわけではない点に注意しましょう。
一方で、複式簿記のように1つの取引を借方と貸方に分けて仕訳する必要はなく、貸借対照表(資産や負債の一覧表)を作る必要もありません。帳簿の種類は増えますが、1つひとつの記帳はシンプルです。
簡易簿記と複式簿記の違い
| 項目 | 簡易簿記 | 複式簿記 |
|---|---|---|
| 記録のしかた | 取引を1回だけ記録 | 1つの取引を借方・貸方の2面で記録(仕訳) |
| 主な帳簿 | 現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳 | 仕訳帳・総勘定元帳(補助簿として現金出納帳など) |
| 作る決算書 | 損益計算書(青色申告決算書の1〜3ページ) | 損益計算書+貸借対照表 |
| 必要な知識 | ほぼ不要 | 仕訳と勘定科目の基本 |
| 青色申告特別控除(2026年分) | 10万円 | 55万円(e-Taxか電子帳簿保存で65万円) |
| わかること | 1年間のもうけ(利益) | もうけ+財産・借入金の状況 |
簡易簿記と複式簿記の大きな違いは、「1つの取引をいくつの面から記録するか」です。簡易簿記は取引を1回だけ記録しますが、複式簿記では、1つの取引を「何が増えて、何が減ったか」という2つの面から記録します。
同じ取引の記録で比べてみる
たとえば、「事業用のパソコン代5万円を事業用口座から支払った」という取引を記録する場合で比べてみましょう。
- 簡易簿記:経費帳(または固定資産台帳)に「パソコン購入 50,000円」と記録し、預金の出入りを別の帳簿で管理
- 複式簿記:仕訳帳に「(借方)消耗品費 50,000円/(貸方)普通預金 50,000円」と記録し、総勘定元帳の各勘定科目に転記
複式簿記では、経費が増えたことと預金が減ったことを同時に記録するため、年末に預金や借入金の残高まで自動的にわかり、貸借対照表を作ることができます。この「財産の状況まで把握できるかどうか」が、控除額の差にもつながっています。
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簡易簿記と複式簿記で青色申告特別控除はいくら違う?

青色申告特別控除の金額は、記帳方法と申告方法によって決まります。2026年分(令和8年分)の要件は次のとおりです(国税庁 タックスアンサーNo.2072)。
| 控除額 | 主な要件(2026年分) |
|---|---|
| 65万円 | 55万円の要件に加えて、e-Taxで申告する、または仕訳帳・総勘定元帳を優良な電子帳簿として保存する |
| 55万円 | 事業所得(または事業的規模の不動産所得)があり、複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に申告する |
| 10万円 | 上記に当てはまらない青色申告者(簡易簿記の人、期限後に申告した人など) |
2027年分以後は控除額と要件が変わる
令和8年度税制改正により、2027年分(令和9年分)以後は、55万円控除の区分はe-Taxでの提出を要件に65万円に、65万円控除の区分はe-Taxでの提出に加えて仕訳帳・総勘定元帳の電子保存などを要件に75万円に引き上げられます。また、10万円控除は、前々年の事業所得等の収入金額が1,000万円を超える人は対象外になります(財務省「令和8年度税制改正の大綱」)。簡易簿記の10万円控除の金額そのものは変わりません。
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税金の差はどのくらい?
控除額の差が手取りにどう影響するかを、所得税と住民税を合わせた税率が20%の人で試算してみましょう。
| 記帳方法(2026年分) | 控除額 | 税金が減る額の目安(税率20%) |
|---|---|---|
| 白色申告 | 0円 | 0円 |
| 青色申告・簡易簿記 | 10万円 | 約2万円 |
| 青色申告・複式簿記(書面で提出) | 55万円 | 約11万円 |
| 青色申告・複式簿記(e-Tax) | 65万円 | 約13万円 |
簡易簿記と、複式簿記+e-Taxでは、1年で約11万円の差になる計算です。控除額は国民健康保険料の計算にも影響するため、実際の差はさらに大きくなることがあります。
簡易簿記のメリット・デメリット
- 青色申告特別控除は10万円にとどまる
- 財産や借入金の状況がわかりにくい
- 帳簿の種類が多く、転記の手間がある
- 融資の際に貸借対照表を出せない
- 仕訳の知識がなくても始められる
- 家計簿感覚で記帳できる
- 青色申告の特典(赤字の繰越しなど)は使える
- 白色申告と手間があまり変わらない
メリット:簿記の知識がなくても青色申告ができる
簡易簿記の最大のメリットは、借方・貸方の仕訳を覚えなくても、青色申告ができることです。日付・内容・金額を記録していくだけなので、簿記を学んだことがない人でもすぐに始められます。
また、青色申告をしていれば、特別控除以外の特典は簡易簿記でも受けられます。家族に払う給与を経費にできる「青色事業専従者給与」(届出が必要)、赤字を翌年以後3年間繰り越せる「純損失の繰越控除」、30万円未満の備品などを一度に経費にできる「少額減価償却資産の特例」などです。少額減価償却資産の特例は、令和8年度税制改正で取得価額の上限を40万円未満に引き上げることとされています(財務省「令和8年度税制改正の大綱」、適用時期は改正法令で確認してください)。

デメリット:控除が小さく、経営の数字が見えにくい
一方で、青色申告特別控除は10万円にとどまり、複式簿記との差は最大55万円(2026年分)になります。また、簡易簿記では貸借対照表を作らないため、預金や借入金、売掛金の残高を一覧で把握しにくく、資金繰りの管理や金融機関への説明がしづらい面があります。
事業の規模が大きくなってきた人や、融資を受ける予定がある人は、早めに複式簿記に切り替えることをおすすめします。
簡易簿記の始め方|必要な5つの帳簿
| 帳簿 | 記録する内容 | 必要な人 |
|---|---|---|
| 現金出納帳 | 現金の入金・出金と残高 | すべての人 |
| 売掛帳 | 掛けで売った売上と、その回収 | 後払い(掛け)で売上がある人 |
| 買掛帳 | 掛けで仕入れた代金と、その支払い | 後払いで仕入れがある人 |
| 経費帳 | 家賃・通信費・消耗品費などの経費を科目ごとに | すべての人 |
| 固定資産台帳 | パソコン・車・機械などの取得日・金額・減価償却費 | 10万円以上の資産を持つ人など |
出典:国税庁 タックスアンサーNo.2070「青色申告制度」をもとに作成
簡易簿記では、上の5つの帳簿が基本です。取引のない帳簿(たとえば掛け取引がない場合の売掛帳・買掛帳)は、作らなくても構いません。事業用の預金口座を使っている場合は、現金出納帳と同じ形式で「預金出納帳」をつけておくと、お金の流れがわかりやすくなります。
帳簿と一緒に保存する書類
帳簿のほか、取引の証拠になる書類も保存が必要です。領収書・レシート、請求書、納品書、見積書、契約書、預金通帳などを、日付順や月別にまとめて保管しておきましょう。
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簡易簿記の記帳例

ここでは、2026年12月の取引を例に、簡易簿記での記帳を紹介します。月初の現金残高は20,000円とします。
【現金出納帳】
| 日付 | 摘要 | 入金 | 出金 | 残高 |
|---|---|---|---|---|
| 2026年12月1日 | 前月より繰越 | 20,000円 | ||
| 2026年12月1日 | A商店 商品販売(現金売上) | 100,000円 | 120,000円 | |
| 2026年12月2日 | B電器 プリンター購入 | 50,000円 | 70,000円 | |
| 2026年12月3日 | 12月分 事務所家賃 | 30,000円 | 40,000円 |
【売掛帳(C社)】
| 日付 | 摘要 | 売上金額 | 受入金額 | 差引残高 |
|---|---|---|---|---|
| 2026年12月10日 | デザイン制作(12月請求分) | 200,000円 | 200,000円 | |
| 2027年1月31日 | 普通預金へ入金 | 200,000円 | 0円 |
【経費帳】
| 日付 | 勘定科目 | 摘要 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 2026年12月2日 | 消耗品費 | B電器 プリンター購入 | 50,000円 |
| 2026年12月3日 | 地代家賃 | 12月分 事務所家賃 | 30,000円 |
掛けで売った売上は、代金を受け取っていなくても、商品を引き渡したりサービスを提供したりした日(上の例では12月10日)の売上として記録します。入金が翌年になっても、2026年分の売上になる点に注意しましょう。10万円未満のプリンターは消耗品費として経費にできますが、10万円以上の資産は固定資産台帳に記録し、原則として減価償却で数年に分けて経費にします。
記帳は毎日か、少なくとも週1回
簡易簿記でも、1年分をまとめて記帳しようとすると、領収書の内容を思い出せなかったり、計算が合わなかったりして大きな負担になります。できれば毎日、少なくとも週に1回は記帳し、月末には現金出納帳の残高と手元の現金が合っているかを確認しましょう。
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簡易簿記で青色申告するときの注意点

青色申告承認申請書の提出期限を守る
簡易簿記であっても、青色申告をするには、事前に税務署へ「所得税の青色申告承認申請書」を提出しておく必要があります。提出期限は、青色申告をしたい年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した人は、開業日から2か月以内)です(国税庁「青色申告承認申請手続」)。期限を過ぎると、その年は白色申告になります。
帳簿の保存期間は原則7年
青色申告の帳簿や決算関係書類は、原則として7年間の保存が必要です。請求書・見積書・納品書などの一部の書類は5年間で足ります(国税庁 タックスアンサーNo.2070)。「帳簿は5年保存でよい」と思っている方もいますが、帳簿そのものは7年です。税務調査で過去の取引を確認されることもあるため、年分ごとにまとめて保管しておきましょう。
電子で受け取った請求書や領収書は電子のまま保存
メールやネットで受け取った請求書・領収書などの電子取引データは、2024年1月から、紙に印刷して保存するのではなく、電子データのまま保存することが必要になっています(電子帳簿保存法)。一定の要件を満たせば、検索機能の確保などの要件が緩和される措置もあります(国税庁「電子帳簿保存法関係」)。
白色申告との違いを理解して選ぶ
白色申告も、2014年から記帳と帳簿書類の保存が義務になっています。白色申告の記帳は、売上や経費を日々または日ごとにまとめて記録する簡易なもので、簡易簿記と手間はそれほど変わりません。同じような手間で10万円の控除や青色申告の特典が受けられるなら、青色申告承認申請書を出して、簡易簿記で青色申告をするほうが有利です。
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複式簿記への移行は会計ソフトで簡単に

「複式簿記は難しい」と感じる方も多いですが、現在はクラウド会計ソフトを使えば、簡易簿記とほとんど同じ感覚で複式簿記の帳簿を作れます。日付・金額・内容(科目)を入力するだけで、ソフトが自動で借方・貸方の仕訳に変換し、総勘定元帳や貸借対照表まで作成してくれます。
銀行口座やクレジットカードの明細を自動で取り込み、仕訳の候補を提案してくれる機能もあるため、手書きの簡易簿記より手間が少なくなることも珍しくありません。そのままe-Taxで申告すれば、2026年分は65万円控除の要件を満たせます。2027年分以後の75万円控除に向けて、仕訳帳・総勘定元帳を電子で保存する体制を整えやすいのも会計ソフトの利点です。

移行するタイミング
簡易簿記から複式簿記へは、年の途中ではなく、新しい年分の初め(1月1日)から切り替えるのがスムーズです。切り替える年の1月1日時点の預金残高や売掛金・借入金などの残高を開始残高として登録すれば、その年から複式簿記で記帳できます。特別な届出は不要です。
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まとめ

簡易簿記は、取引を1回だけ記録するシンプルな帳簿のつけ方で、青色申告なら10万円の特別控除が受けられます。現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳の5つが基本の帳簿で、現金の出入りだけでなく掛け取引や固定資産も記録します。
一方、複式簿記で記帳してe-Taxで申告すれば、2026年分は最大65万円、2027年分以後は要件を満たせば最大75万円の控除になります。税率20%の人なら、簡易簿記との差は年間約11万円です。
簿記に自信がない方は、まず簡易簿記で青色申告を始め、慣れてきたら会計ソフトを使って複式簿記に移行するのがおすすめです。帳簿は原則7年間の保存が必要な点も忘れないようにしましょう。
帳簿のつけ方や青色申告で迷ったら
福岡の野村税理士事務所では、青色申告承認申請書の提出から、クラウド会計の導入、記帳のサポート、確定申告までお手伝いしています。freee認定アドバイザーとして、簡易簿記から複式簿記への切り替えもスムーズに進められるよう支援し、毎月の数字をAIで分析する「AI月次分析レポート」で事業の状況をわかりやすくお伝えします。
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参考資料:国税庁 タックスアンサーNo.2070「青色申告制度」/国税庁 タックスアンサーNo.2072「青色申告特別控除」/国税庁「所得税の青色申告承認申請手続」/国税庁「電子帳簿保存法関係」/財務省「令和8年度税制改正の大綱(個人所得課税)」/財務省「令和8年度税制改正の大綱(法人課税)」
※本記事は2026年9月時点の公表情報をもとに作成しています。税額の試算は目安であり、個別の状況によって結果は異なります。具体的な判断は税理士等の専門家にご相談ください。

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野村税理士事務所代表 野村真一
税理士業界23年、野村税理士事務所代表でfreee認定アドバイザー。日本税理士会連合会、九州北部税理士会所属。認定経営革新等支援機関の認定事業者として事業再構築補助金の申請支援を行う。
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