「経費で落とすって、具体的にどういうこと?」「経費にはどんな種類があって、どこまでが認められるの?」
個人事業主やフリーランスとして仕事を始めると、「それ、経費で落とせるよ」という言葉をよく耳にします。ただ、どんな支出でも経費にできるわけではなく、税務上のルールに沿って処理しないと、税務調査で否認されて税金を追加で払うことにもなりかねません。
結論からお伝えすると、「経費で落とす」とは事業のために使ったお金を必要経費として計上し、所得(もうけ)を減らして、その分の税金を少なくすることです。ただし、減るのは「経費の額×税率」の分だけで、使ったお金が戻ってくるわけではありません。事業との関係を説明できる支出を、証拠書類とあわせて正しく記録することが大前提です。
この記事では、「経費で落とす」の意味と税金が減る仕組み、経費の種類、経費にできる条件、家事按分や減価償却の考え方、注意点まで、福岡の税理士がわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 「経費で落とす」の意味と、税金が減る仕組み
- 個人事業主が使う主な経費の種類(勘定科目)
- 経費にできるもの・できないものの線引きと家事按分
- 高額な備品の扱い(2026年4月からの少額減価償却資産40万円未満)
- 不正計上のペナルティと、書類の保存ルール
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「経費で落とす」とは?税金が減る仕組み
個人事業主の所得税の計算の流れ
「経費で落とす」とは、事業で使ったお金を帳簿に必要経費として記録し、確定申告で売上から差し引くことをいいます。税金は売上そのものではなく、売上から必要経費を引いた「所得」をもとに計算されるため、経費が増えると所得が減り、所得税・住民税・個人事業税、さらに国民健康保険料も少なくなります。
所得税法では、事業所得の必要経費を「売上原価その他その総収入金額を得るため直接に要した費用の額」と「販売費、一般管理費その他その所得を生ずべき業務について生じた費用の額」と定めています(所得税法第37条)。つまり、売上を得るために必要だった支出であることが、経費で落とせるかどうかの出発点です。
経費で落とすと、税金はいくら減る?
たとえば、所得税の税率が10%の人が10万円の経費を追加で計上すると、所得税は1万円(復興特別所得税を含めると約1万210円)、住民税(所得割10%)も1万円ほど減ります。個人事業税がかかる業種なら、さらに5,000円(税率5%の場合)ほど減ります。合わせて2万円台半ばの節税になる計算です。
逆にいえば、10万円を使って減る税金は2〜3万円程度で、残りの7〜8万円は手元から出ていったままです。「経費で落とせばタダ」ではない点は、最初に押さえておきましょう。税率ごとの具体的なシミュレーションは、下の記事で詳しく計算しています。
▶ あわせて読みたい:経費で落とすとどれくらい得?経費のシミュレーションと経費にするメリット・デメリットを解説
個人事業主の「必要経費」と法人の「損金」
個人事業主の場合は「必要経費」、法人の場合は「損金」と呼び方が変わりますが、事業のための支出を差し引いて税金を計算するという考え方は同じです。ただし、個人事業主は事業と個人の家計が一体なので、事業主本人への給料や、本人の国民健康保険料・国民年金保険料は経費になりません(保険料は所得控除の「社会保険料控除」の対象です)。法人の場合は、要件を満たす役員報酬を損金にできるなど、扱いが違う点があります。
経費とは?個人事業主の主な経費の種類
| 勘定科目 | 主な費用 | ポイント |
|---|---|---|
| 仕入高・外注費 | 商品の仕入れ、材料費、外部への業務委託料 | 売上に直接結びつく費用。在庫は年末に棚卸しで調整 |
| 給料賃金・法定福利費 | 従業員の給与・賞与、社会保険料の事業主負担分 | 事業主本人の給料は経費にならない |
| 旅費交通費 | 電車・バス・タクシー代、出張の宿泊費、高速代 | プライベートの移動分は不可 |
| 通信費 | インターネット回線、スマホ代、切手代 | 自宅兼用は家事按分が必要 |
| 地代家賃 | 事務所・店舗の家賃、駐車場代 | 自宅兼事務所は面積などで按分 |
| 水道光熱費 | 電気・ガス・水道代 | 自宅兼事務所は使用割合で按分 |
| 消耗品費 | 文房具、コピー用紙、10万円未満の備品 | 10万円以上の備品は減価償却の対象 |
| 広告宣伝費 | チラシ、ホームページ制作、ネット広告 | 事業の宣伝が目的のもの |
| 接待交際費 | 取引先との飲食代、贈答品 | 相手と目的を記録しておく |
| 修繕費 | パソコン・エアコン・設備の修理代 | 元の状態に戻すための費用 |
| 租税公課 | 個人事業税、事業用の固定資産税・自動車税、印紙税 | 所得税・住民税は含まれない |
| 減価償却費 | パソコン、車、機械などの購入代金 | 耐用年数に分けて少しずつ経費にする |
出典:国税庁 タックスアンサー No.2210「やさしい必要経費の知識」をもとに当事務所作成
経費とは、事業を行ううえで必要になる費用のことです。帳簿では、内容ごとに「勘定科目」という名前をつけて整理します。業種によって使う科目は違いますが、上の表の科目を押さえておけば、多くの個人事業主の支出はカバーできます。
勘定科目は、どれを使わなければいけないという決まりが法律にあるわけではありません。大切なのは、同じ種類の支出は毎年同じ科目で処理することです。年によって科目がばらばらだと、前年との比較ができず、経営の分析もしにくくなります。
なお、従業員のための社員旅行や健康診断の費用は「福利厚生費」になりますが、事業主本人や家族だけが対象のものは、原則として福利厚生費にはなりません。
経費で落とす条件は?目的の明確化と書類の保存

経費として認められるには、大きく2つの条件があります。ひとつは「その支出が事業のために必要だった」という目的がはっきりしていること、もうひとつは、それを証明できる書類と帳簿が残っていることです。
条件①事業のための支出であると説明できる
同じ飲食代でも、取引先との打ち合わせなら会議費や接待交際費になりますが、家族との外食は経費になりません。判断の基準は「その支出がなければ売上を得られなかったか、業務に役立っているか」です。税務調査では、支出の内容や相手、目的を具体的に聞かれることがあるため、日付・相手・目的を領収書の余白や会計ソフトのメモ欄に残しておくと安心です。
条件②領収書などの証拠書類と帳簿を保存する
支出の証拠になるのは、領収書・レシート・請求書・契約書・振込の控え・クレジットカードの利用明細などです。領収書では、日付・金額・支払先・但し書き(何の代金か)が読み取れるかを確認しましょう。電車代など領収書が出ない支払いは、日付・区間・金額・目的を出金伝票などに記録しておけば、経費として説明できます。
また、消費税の課税事業者(インボイス登録をした人など)が仕入税額控除を受けるには、原則としてインボイス(適格請求書)の保存も必要です。所得税の経費になるかどうかと、消費税の仕入税額控除ができるかどうかは別の問題なので、混同しないようにしましょう。
帳簿と書類はいつまで保存する?
| 区分 | 保存するもの | 保存期間 |
|---|---|---|
| 青色申告 | 帳簿(仕訳帳・総勘定元帳など)、決算関係書類 | 7年 |
| 青色申告 | 領収書・請求書など現金預金取引等関係書類 | 7年(前々年分の所得300万円以下なら5年) |
| 青色申告 | その他の書類(見積書・納品書など) | 5年 |
| 白色申告 | 収入金額や必要経費を記載した帳簿 | 7年 |
| 白色申告 | 業務に関して作成した上記以外の帳簿、領収書などの書類 | 5年 |
出典:国税庁「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」。保存期間は、原則として確定申告期限の翌日から数えます。
迷ったら「すべて7年保存」にしておけば、保存漏れの心配がありません。スマートフォンで撮影したりスキャンしたりして電子データで保存することも、電子帳簿保存法の要件を満たせば認められています。ネットで受け取った請求書などの電子データは、2024年1月から原則として電子データのまま保存する必要があります。

経費で落とせるもの・落とせないもの
- 私的な食事・旅行・衣服代
- 所得税・住民税
- 本人の国民健康保険料・国民年金保険料(社会保険料控除へ)
- 延滞税・加算税・罰金・交通違反の反則金
- 事業主本人への給料
- 仕入・外注費・従業員の給与
- 打ち合わせの交通費・会議費
- 事務所家賃・通信費(按分後)
- 個人事業税・事業用の固定資産税や自動車税・印紙税
- 業務用ソフト・書籍・セミナー代
線引きの考え方はシンプルで、「事業のための支出かどうか」です。事業に使うパソコンやソフトウェア、事務所の家賃、従業員の給与などは当然経費になります。一方、プライベートな旅行や食事、普段着の購入など、個人的な趣味や生活のための支出は経費になりません。
税金や社会保険料は経費になる?
税金は種類によって扱いが分かれます。個人事業税、事業で使う建物や車の固定資産税・自動車税、契約書に貼る印紙税などは「租税公課」として経費にできます。一方で、所得税と住民税は、もうけに対して個人にかかる税金なので経費になりません。延滞税や加算税、罰金なども経費にはできません。
事業主本人の国民健康保険料や国民年金保険料も経費にはなりませんが、確定申告で「社会保険料控除」として全額を所得から差し引けます。結果として税金は減るので、申告の際に忘れず記入しましょう。
判断に迷いやすい支出
スーツや腕時計のように仕事でもプライベートでも使えるものは、原則として経費にしにくい支出です。一方、制服や撮影用の衣装など、業務以外に使わないことが明らかなものは経費にできる余地があります。書籍やセミナー代も、業務に関係する内容なら経費になります。判断に迷う支出の具体例は、下の記事で詳しく紹介しています。
▶ あわせて読みたい:個人事業主はどこまで経費に落とせる?経費の判断基準とよく迷う経費も紹介
個人事業主の家事按分とは?生活費の一部を経費で落とせる
| 費用 | 按分の基準の例 | 計算例 |
|---|---|---|
| 家賃 | 床面積(仕事部屋の面積÷全体の面積) | 家賃10万円×30%=月3万円 |
| 電気代 | 仕事で使う時間や部屋、使用機器 | 電気代1万円×40%=月4,000円 |
| スマホ・ネット回線 | 仕事で使う時間や通話の割合 | 月8,000円×50%=月4,000円 |
| 車の費用 | 走行距離(仕事の距離÷総走行距離) | ガソリン代2万円×60%=月1.2万円 |
※割合は一例です。実際の使い方に合わせて合理的に決めてください。
家事按分(かじあんぶん)とは、事業とプライベートの両方に使っている支出を、事業で使っている割合に応じて分け、その分だけを経費にする方法です。自宅を仕事場にしている人や、自家用車を仕事にも使っている人は、家事按分によって生活費の一部を経費で落とせます。
たとえば、家賃10万円の自宅のうち30%を仕事場として使っているなら、月3万円、年間36万円が経費になります。按分の割合は「なんとなく半分」ではなく、面積・時間・走行距離など、客観的に説明できる基準で決めることが大切です。

なお、所得税法では、家事関連費を必要経費にできるのは、業務に必要な部分が明らかに区分できる場合に限られています。また、白色申告の人は、業務に必要な部分が50%を超えることが必要とされる取扱いもあります。按分の根拠(間取り図、仕事時間の記録、走行記録など)を残しておくと、税務調査でも説明しやすくなります。
▶ あわせて読みたい:駐車場代の勘定科目とは?仕訳例や経費計上する際の注意点を解説
高額なものは一度に落とせない?減価償却と少額の特例
| 1つあたりの取得価額 | 経費にする方法 | 対象 |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 買った年に全額を経費(消耗品費など) | すべての人 |
| 10万円以上20万円未満 | 一括償却資産として3年で均等に経費 | すべての人 |
| 10万円以上40万円未満 | 少額減価償却資産の特例で、買った年に全額を経費(年合計300万円まで) | 青色申告の中小事業者(2026年3月31日までの取得は30万円未満) |
| 上記以外 | 耐用年数に応じて毎年少しずつ経費(減価償却) | すべての人 |
出典:国税庁 タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」(令和8年4月1日現在法令等)、財務省「令和8年度税制改正の大綱」
パソコンや車、機械などの長く使うものは、買った年に全額を経費にするのではなく、法律で決められた耐用年数に分けて少しずつ経費にします。これを「減価償却(げんかしょうきゃく)」といいます。たとえば、耐用年数4年のパソコンを40万円で買った場合、定額法なら1年あたり10万円ずつ経費になります(年の途中で買った場合は月割り)。
ただし、金額が小さいものには特例があります。10万円未満なら全額をその年の経費にでき、青色申告をしている中小事業者は「少額減価償却資産の特例」を使えば、一定の金額未満のものを買った年に全額経費にできます。この特例の上限は、令和8年度税制改正で30万円未満から40万円未満に引き上げられ、2026年4月1日以後に取得したものから適用されています(年間の合計300万円までという枠は同じ)。
決算で調整が必要な経費もある
年末の決算では、1年間の経費を正しい年に計上するための調整(決算整理)を行います。代表的なものは、減価償却費の計上、12月分の請求書が翌年に届く費用の未払計上、年末に残っている商品の棚卸し、翌年分をまとめて払った費用の前払処理などです。
たとえば、12月に使った電気代を翌年1月に払った場合でも、12月分の経費として計上します。逆に、翌年分の保険料をまとめて払った場合は、原則として翌年の経費になります(1年以内の短期前払費用は、毎年継続して同じ処理をするなど一定の要件で支払った年の経費にできます)。
▶ あわせて読みたい:【2026年度税制改正】法人向け|賃上げ税制・設備投資・少額減価償却40万円
経費で落とすメリット・デメリット

メリット①税金と社会保険料の負担が減る
経費で落とす最大のメリットは、所得が減ることで税金が安くなることです。所得税だけでなく、住民税、個人事業税、そして所得をもとに計算される国民健康保険料も下がります。個人事業主にとっては、これらをまとめて考えると効果は小さくありません。
メリット②事業の本当のもうけがわかる
経費をきちんと記録すると、売上からいくら残っているのかという事業の実態が正確にわかります。どの経費が増えているのか、利益率はどうか、といった分析ができ、値決めや投資の判断に役立ちます。融資を受けるときも、正確な帳簿は信頼につながります。
デメリット①記帳と書類の保存に手間がかかる
経費で落とすには、領収書などを保存し、帳簿に記録する必要があります。事業が大きくなるほど作業は増えますが、クラウド会計ソフトで銀行口座やカードの明細を取り込めば、手間はかなり減らせます。
デメリット②使いすぎると手元のお金が減る
「税金を払うくらいなら経費で使おう」と不要なものを買うと、減る税金よりも出ていくお金のほうが大きくなります。また、経費を減らしすぎて所得が小さくなると、融資の審査で不利になることもあります。経費は「必要なものを漏れなく」計上するのが基本です。

経費で落とすときの注意点

注意点①架空の経費や私的な支出の計上は不正になる
実際にはない取引を経費にしたり、私的な支出を事業の経費に混ぜたりするのは不正計上です。税務調査で指摘されると、本来の税金に加えて延滞税や加算税がかかります。税務調査を受けて申告額が少なかったことがわかった場合の過少申告加算税は、原則として追加で納める税金の10%(一定額を超える部分は15%)です(国税庁 タックスアンサー No.2026)。さらに、売上や経費を仮装・隠ぺいしたと判断されると、過少申告加算税に代えて35%(無申告の場合は40%)の重加算税が課されます。悪質な場合は刑事罰の対象にもなります。
注意点②プライベートとの兼用は按分して根拠を残す
家賃やスマホ代、車の費用などを全額経費にしてしまうのは、よくある指摘事項です。事業で使った割合で按分し、その根拠を残しておきましょう。事業用の口座とクレジットカードを分けておくと、私的な支出が混ざりにくくなります。
注意点③年をまたぐ経費は正しい年に計上する
12月に買って翌年に支払ったものや、翌年分をまとめて払ったものなど、年をまたぐ取引は計上する年を間違えやすいポイントです。売上と経費を正しい年に計上しないと、修正申告が必要になることもあります。判断に迷うときは、早めに税理士に相談しましょう。
▶ あわせて読みたい:個人事業主ができる節税対策!経費・控除の仕組みや税金を抑える工夫を解説
まとめ

「経費で落とす」とは、事業のために使ったお金を必要経費として計上し、所得を減らして税金を抑えることです。減るのは「経費×税率」の分だけで、使ったお金そのものが戻るわけではありません。
経費にできるのは、事業との関係を説明できる支出だけです。プライベートと兼用している支出は合理的な基準で家事按分し、領収書や帳簿は原則7年保存しましょう。高額な備品は減価償却が必要ですが、青色申告の中小事業者なら、2026年4月以後に取得した40万円未満のものは買った年に全額を経費にできる特例があります。
経費を正しく記録することは、節税だけでなく、事業のもうけを正確に知ることにもつながります。判断に迷う支出があれば、自己判断せずに税理士に確認するのが安心です。
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参考資料:e-Gov法令検索「所得税法」/国税庁 タックスアンサー No.2210「やさしい必要経費の知識」/国税庁「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」/国税庁 タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」/国税庁 タックスアンサー No.2026「確定申告を間違えたとき」/財務省「令和8年度税制改正の大綱(法人課税)」
※本記事は2026年9月時点の法令・公表情報をもとに作成しています。税額の計算例は目安であり、個別の状況によって結果は異なります。具体的な判断は税理士等の専門家にご相談ください。

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野村税理士事務所代表 野村真一
税理士業界23年、野村税理士事務所代表でfreee認定アドバイザー。日本税理士会連合会、九州北部税理士会所属。認定経営革新等支援機関の認定事業者として事業再構築補助金の申請支援を行う。
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