「個人事業主になるには、まず何をすればいいの?」「開業資金はどのくらい必要?」「インボイス制度には必ず対応しないといけないの?」
これから独立・開業を目指す方の多くが、このような不安や疑問を抱えています。個人事業主は会社を作るより手軽に始められますが、税務署への届出、資金の準備、健康保険や年金の切り替え、インボイス制度への対応など、開業前後にやることは少なくありません。
結論からお伝えすると、開業準備は「事業計画と資金計画→物件・備品→許認可→税務の届出→保険・年金→口座・カード」の順にリストで進めるのが確実です。2026年1月から開業届の提出期限は「その年分の確定申告期限まで」に変わりましたが、青色申告承認申請書は開業から2か月以内のままなので、開業届とセットで早めに出しましょう。
この記事では、個人事業主の開業準備でやることリスト9つ、用意したい備品、開業資金の目安と負担を抑える方法、従業員を雇うときの手続き、インボイス制度の考え方まで、福岡の税理士がわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 開業に必要な届出と提出期限の一覧(2026年の開業届の改正対応)
- 個人事業主の開業準備でやることリスト9つ
- 開業資金の目安と、日本政策金融公庫の融資・青色申告など負担を抑える方法
- 従業員を雇うときの労働保険・社会保険の手続き
- インボイス登録をするかどうかの判断のポイントと、2026年以後の特例
開業届を出していない場合のリスクや、出さない方がよいケースについては、次の記事で詳しく解説しています。

個人事業を始めるには?開業に必要な届出と期限の一覧
| 手続き | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届) | 税務署 | 2026年以後の開業はその年分の確定申告期限まで(2025年までの開業は1か月以内) |
| 所得税の青色申告承認申請書 | 税務署 | 開業日から2か月以内(1月15日以前の開業は3月15日まで) |
| 青色事業専従者給与に関する届出書 | 税務署 | 3月15日まで(1月16日以後の開業などは2か月以内) |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 給与の支払いを始めてから1か月以内 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 税務署 | 随時(常時10人未満の場合) |
| 適格請求書発行事業者の登録申請書 | 税務署 | 任意(登録を受けたい時期に合わせて) |
| 個人事業開始等申告書 | 県税事務所 | 条例で定める期限(福岡県は県税事務所で確認) |
| 国民健康保険・国民年金への切り替え | 市区町村 | 退職日の翌日から14日以内 |
| 健康保険の任意継続 | 退職前の協会けんぽ・健康保険組合 | 資格喪失日から20日以内 |
| 許認可の申請・届出 | 保健所・都道府県など | 営業を始める前 |
出典:国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」、国税庁「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」
会社を設立せずに事業を始める場合は、個人事業主として税務署に「開業届」を提出します。元の記事では「開業届は事業開始から1か月以内の提出が原則」としていましたが、所得税法の改正により、2026年1月1日以後に事業を始めた場合の提出期限は「事業を始めた日の属する年分の確定申告期限まで」になりました(e-Gov法令検索「所得税法」第229条)。たとえば2026年10月に開業した場合は、2027年3月15日が期限です。
開業届を出さなくても罰則はありませんが、青色申告の承認を受けられないなど損をすることが多い書類です。期限が延びた一方で、青色申告承認申請書の期限は「開業日から2か月以内」のまま変わっていません。開業届と青色申告承認申請書は同時に出すのがおすすめです。
個人事業主のための開業準備!開業前にやることリスト9つ

個人事業主に必要な開業準備のやることリストは次のとおりです。
- 事業計画を立てる
- 資金計画を立てて資金調達する
- 物件を探す
- パソコンなどの備品を整備する
- 許認可を申請する(必要な場合)
- 開業届と青色申告承認申請書などの税務関係書類を提出する
- 国民健康保険・国民年金に切り替える(任意継続も検討)
- 事業用の銀行口座を開設する
- 事業用のクレジットカードを作る
個人事業主として開業するには、事業計画から資金調達、税務・社会保険の手続きまで幅広い準備が必要です。順番に一つずつ確実に進めましょう。
①事業計画を立てる|目的づくりから数値計画まで
事業計画(事業計画書)は、どんな事業で、どのように売上を上げ、いつ黒字にするのかを示す「設計図」です。アイデアの整理だけでなく、日本政策金融公庫の創業融資や補助金の申請でも提出を求められる重要な書類です。次の項目を順に書き出してみましょう。
- 事業の目的・コンセプト:何の課題を、だれに、どんな価値で解決するかを一文にする(例:フリーランス向けに「早い・わかりやすい」経理代行を月額定額で提供)
- ターゲット顧客:年齢・職業・地域・悩みまで具体的に。BtoBなら業種や規模、決裁者も
- 商品・サービスと価格:原価→粗利率→販売価格の順で設計し、料金体系も決める
- 競合と差別化:競合3社程度の価格と強み・弱みを調べ、自分の勝ち筋を言葉にする
- 販売計画:ホームページ・SNS・紹介など、見込み客が成約に至るまでの流れを作る
- 売上目標:問い合わせ数×商談率×成約率×単価で月ごとに設定する
- 経費の見積もり:家賃・通信費などの固定費と、仕入・外注費などの変動費に分ける
- 資金計画と損益分岐点:12か月の資金繰り表を作り、赤字にならない売上(損益分岐点)を確認する
- 法令・制度への対応:許認可、インボイス登録の要否、電子帳簿保存法への対応
- スケジュール:物件契約→許認可→開業届→ホームページ公開→集客開始→初回入金
売上目標は、たとえば「問い合わせ50件×商談率40%×成約率30%=月6件、単価10万円なら月売上60万円」のように分解すると、何を増やせば目標に届くかが見えてきます。元の記事ではこの計算の答えを月600万円としていましたが、正しくは60万円です。目標売上は、損益分岐点の120〜130%程度にしておくと安心です。
▶ あわせて読みたい:事業計画書の作成サポート|野村税理士事務所
②資金計画を立てて資金調達する
開業したばかりの時期にお金が足りなくなる「資金ショート」は、事業が続かなくなる大きな原因です。開業時にかかる初期費用(設備資金)と、毎月かかる運転資金を分けて見積もり、自己資金で足りない分を融資などで準備します。金額の目安や調達方法は、後の「開業に必要な資金はいくら?」で詳しく解説します。
③物件を探す|立地と家賃のバランスが大切
店舗や事務所を借りる場合、立地は集客や事業のイメージを大きく左右します。若者向けの雑貨店を静かな住宅街に出しても来店は見込みにくく、ターゲットが集まる駅の近くや繁華街の方が有利です。ただし、理想の立地でも家賃が高すぎると経営を圧迫します。
- ターゲットの顧客が来やすい立地か
- 店舗・事務所として使いやすい広さと設備か(飲食店なら厨房・排気・給排水など)
- 家賃・共益費・保証金を含めて、事業計画に無理がないか
- 用途や業種の制限、看板の設置、営業時間の制限がないか
敷金や保証金は、退去時に返ってくるお金なので経費ではなく資産として処理します。礼金や仲介手数料の扱いとあわせて、契約書の内容を確認しておきましょう。
▶ あわせて読みたい:敷金の勘定科目は何?経費と資産どっち?敷金の仕訳例、消費税の対象となるケースも解説
④パソコンなどの備品を整備する
パソコンやプリンター、ネット回線などの備品は、日々の業務効率と顧客対応の質を左右します。動作の遅いパソコンでは見積書や請求書の作成に時間がかかり、不安定な回線では顧客との連絡に支障が出ます。デザイン業なら画像編集が快適に動くパソコン、小売業ならレジや在庫管理の機材など、事業に必要なスペックを確認しましょう。開業時は中古品やリースを活用し、売上が安定してから買い替えるのも賢い方法です。
⑤許認可を申請する(必要な場合)
業種によっては、営業を始める前に許可や届出が必要です。許認可を得ずに営業すると、営業停止や罰則の対象になることがあります。
| 業種 | 主な許認可・届出 | 主な窓口 |
|---|---|---|
| 飲食店 | 飲食店営業許可(食品衛生責任者の設置も必要) | 保健所 |
| 美容室・理容室 | 美容所・理容所の開設届と検査 | 保健所 |
| 建設業 | 建設業許可(一定規模以上の工事) | 都道府県など |
| 運送業 | 一般貨物自動車運送事業の許可など | 運輸局 |
| 宿泊業 | 旅館業許可 | 保健所 |
| 酒類の販売 | 酒類販売業免許 | 税務署 |
許認可は、申請から取得までに一定の期間がかかることが多く、内装工事が終わっても許可が下りずに開店できない、ということも起こり得ます。物件を決める前に、必要な許認可と設備の基準を窓口で確認しておきましょう。
⑥開業届と青色申告承認申請書を提出する
事業を始めたら、税務署に「開業届」と「所得税の青色申告承認申請書」を提出します。開業届は、事業を始めたことを税務署に知らせる書類で、屋号付きの銀行口座の開設や融資の申込みで控えを求められることがあります。
青色申告を選ぶと、帳簿のつけ方に応じて最大65万円の特別控除が受けられるほか、家族への給与を経費にできる(別途「青色事業専従者給与に関する届出書」が必要)、赤字を翌年以後3年間繰り越せる、といったメリットがあります。2027年分(令和9年分)以後は、e-Taxでの申告と帳簿の電子保存などの要件を満たせば、特別控除が最大75万円になります。
- 青色申告承認申請書は開業日から2か月以内(1月15日以前の開業は3月15日まで)。期限を過ぎるとその年は白色申告になる
- 開業届の屋号は任意で、あとから変更もできる
- 従業員に給与を払う場合は「給与支払事務所等の開設届出書」も必要
- 開業届・青色申告承認申請書はe-Taxで自宅から提出できる

⑦国民健康保険・国民年金に切り替える(任意継続も検討)
会社を退職して個人事業主になる場合は、健康保険を国民健康保険に、厚生年金を国民年金に切り替える手続きが必要です。日本は国民皆保険・皆年金の仕組みなので、手続きをしないままにすると、医療費の全額自己負担や将来の年金の減少につながります。
- 住所地の市区町村で手続き
- 退職日の翌日から14日以内
- 保険料は前年の所得などで決まる
- 扶養の考え方がなく家族も加入者に
- 退職前の健康保険に申請
- 資格喪失日から20日以内
- 最長2年、会社負担分も自己負担
- 扶養家族も引き続き加入できる
元の記事では「退職後14日以内に任意継続か国民健康保険かを決める」としていましたが、任意継続の申請期限は資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内です。国民健康保険の手続きは14日以内が原則なので、どちらが安くなるか、市区町村の窓口や健康保険の窓口で保険料を確認して早めに決めましょう。国民年金への切り替えも、市区町村の窓口で14日以内に行います。
⑧事業用の銀行口座を開設する
法律上は、個人の口座をそのまま事業に使っても問題ありません。しかし、生活費と事業のお金が混ざると、どの支出が経費かわかりにくくなり、帳簿づけや確定申告が大変になります。事業専用の口座を作れば、入金と支払いがまとまり、資金の管理がしやすくなります。金融機関によっては屋号付きの口座も作れ、取引先からの信頼にもつながります。開業届の控えなど、事業をしていることがわかる書類を求められることが多いので、用意しておきましょう。
⑨事業用のクレジットカードを作る
経費の支払いを事業用カードにまとめると、利用明細がそのまま経費の記録になり、会計ソフトと連携すれば自動で取り込めます。支払いが翌月以降になるため、手元に現金を残しやすく、資金繰りにも役立ちます。会社員のうちに作っておくと審査がスムーズな場合もあります。
JCBカードW / JCBカードW plus L
開業準備で用意しておきたいもの・備品リスト
| 用意するもの | 目的 | ポイント |
|---|---|---|
| ホームページ | 事業の紹介・問い合わせ窓口 | 信頼性が高まり、融資の審査でも事業内容を伝えやすい |
| SNSアカウント | 集客・情報発信 | 屋号で統一し、ホームページと相互にリンク |
| 名刺 | 取引先へのあいさつ | 屋号・連絡先・インボイス登録番号(登録した場合) |
| 印鑑 | 契約書・請求書への押印 | 屋号入りの角印があると便利 |
| 事業用の電話番号 | 顧客からの連絡 | IP電話やスマホの2番号サービスも選択肢 |
| インターネット環境 | オンラインのやり取り | 在宅なら家事按分の根拠も記録 |
| 会計ソフト | 記帳・確定申告 | クラウド型なら口座・カードと連携できる |
| 事業用クレジットカード | 経費の支払い | 明細を会計ソフトに自動で取り込む |
開業にあたっては、事業をスムーズに始めるために最低限そろえておきたい道具があります。パソコンや机・椅子などは、1つ10万円未満なら買った年に全額を経費にできます。青色申告をしている一定の中小事業者は、2026年4月1日以後に取得した40万円未満の資産を、年300万円まで一括で経費にできる特例もあります(国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」)。開業前に買ったものも、事業のために使っていれば経費や資産として計上できるので、領収書は必ず保管しておきましょう。
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開業に必要な資金はいくら?

開業に必要な資金の額は、始める事業の種類や規模によって大きく変わるため、一概に「いくら」とは言えません。ただし、どのような事業でも、開業資金は「設備資金」と「運転資金」の2つで構成されます。
| 区分 | 目的 | 主なもの |
|---|---|---|
| 設備資金 | 事業を始めるために最初に必要な投資 | 店舗・事務所の敷金・礼金、内装工事費、機械・什器・パソコンなどの備品 |
| 運転資金 | 事業が軌道に乗るまで日々の運営を支えるお金(3〜6か月分が目安) | 仕入・材料費、人件費、家賃・光熱費、広告宣伝費 |
たとえば、Webデザイナーが自宅で開業する場合は、高性能なパソコンとソフト程度で数十万円で始められることもあります。一方、カフェを開業する場合は、物件取得費、内外装工事、厨房設備、初期の材料費などで数百万円以上かかるのが一般的です。自分の事業計画をもとに具体的に積み上げ、売上の立ち上がりが遅れても耐えられるよう、余裕をもった計画を立てましょう。
自己資金で足りないときの資金調達
自己資金で足りない場合は、日本政策金融公庫の創業融資や、自治体の制度融資(信用保証協会の保証付き融資)を検討します。日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、新たに事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の方が対象で、融資限度額は7,200万円です(日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」)。女性や35歳未満・55歳以上の方などは、特別利率が適用される場合があります。
実際の融資額は、事業計画の内容や自己資金の額、これまでの経験などで判断されます。自己資金は、通帳で少しずつ貯めてきた経緯が見えると評価されやすいといわれます。融資の面談では事業計画書の数字の根拠を聞かれるので、自分の言葉で説明できるよう準備しておきましょう。
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開業前の支出は「開業費」として経費にできる
開業前に支払った市場調査の費用、打ち合わせの交通費、名刺やチラシの作成費、開業準備のためのセミナー代などは、「開業費」としてまとめて計上できます。開業費は繰延資産として扱い、開業した年以後、好きな年に好きな金額を経費にできる(任意償却)のが特徴です。利益が出た年に多めに経費にするなど、柔軟に使えます。開業前の領収書も捨てずに保管しておきましょう。
開業資金の負担を抑える方法

開業資金や開業後の負担を抑える方法には、主に次の3つがあります。

①国や自治体の補助金・助成金を利用する
補助金・助成金は、融資と違って原則として返済不要のお金です。たとえば「小規模事業者持続化補助金」は、チラシやホームページ制作などの販路開拓の費用の一部を補助する制度です。自治体によっては、創業者向けの補助金や、制度融資の利子・保証料の補助を行っているところもあります。
- 申請には事業計画書が必要で、採択されないこともある
- 多くは後払い(先に自分で支払い、実績報告の後に入金)なので、つなぎの資金が必要
- 公募の時期や予算が決まっているため、最新の公募要領を確認する
- 創業前後の時期や開業届の開業日が、申請の要件になっているものがある
②青色申告特別控除を受ける
青色申告をして一定の要件を満たすと、所得から最大65万円を差し引ける「青色申告特別控除」を受けられます。控除が65万円あると、税率に応じて所得税と住民税で年間約10万〜22万円の税金が減る目安です(上のグラフ)。国民健康保険料や個人事業税も所得をもとに計算するため、実際の効果はさらに大きくなります。
元の記事では「所得100万円で65万円控除を受けると、所得税率20%+住民税10%で19.5万円の節税」としていましたが、課税所得が100万円程度なら所得税率は5%で、この税率の組み合わせは当てはまりません。また、2026年分(令和8年分)は基礎控除が引き上げられ、合計所得金額489万円以下の人は基礎控除が104万円になるため、所得100万円なら青色申告の控除がなくても所得税はかからない計算です(財務省「令和8年度税制改正の大綱」)。控除の効果は所得や税率によって大きく変わる点に注意しましょう。
▶ あわせて読みたい:【2026年度税制改正】暗号資産20%・青色申告75万円ほか その他の改正
③自宅で開業する
事務所や店舗を借りないで自宅で開業すれば、敷金・礼金・家賃がかからず、初期費用と固定費を大きく抑えられます。Webライター、デザイナー、オンライン講師、ネットショップ運営など、お客様を招く必要がない仕事に向いています。自宅の家賃や光熱費のうち、仕事に使っている部分は、面積や時間などの割合で按分して経費にできます(家事按分)。
一方で、生活空間と仕事場の区切りがつきにくい、自宅の住所を公開したくない、といった悩みもあります。住所の公開を避けたい場合は、バーチャルオフィスを利用する方法もあります。
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個人事業主が従業員を雇う場合の手続きは?
| 制度 | 加入が必要な場合 | 主な手続き | 窓口 |
|---|---|---|---|
| 労災保険 | 従業員(パート・アルバイト含む)を1人でも雇ったとき(一部の農林水産業を除く) | 労働保険関係成立届、概算保険料申告書 | 労働基準監督署 |
| 雇用保険 | 週20時間以上・31日以上の雇用見込みの人を雇ったとき | 雇用保険適用事業所設置届、被保険者資格取得届 | ハローワーク |
| 健康保険・厚生年金 | 常時5人以上を使用する個人事業所(一部の業種を除く)。それ以外は任意 | 新規適用届、被保険者資格取得届 | 年金事務所 |
| 源泉徴収 | 給与を支払うとき | 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 |
出典:日本年金機構「適用事業所と被保険者」、同「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」。労働保険は労働基準監督署・ハローワークで確認
個人事業主が従業員を雇うときは、労働保険(労災保険・雇用保険)と、条件によっては社会保険(健康保険・厚生年金保険)の手続きが必要です。これらは法律で義務づけられており、従業員の安心を守るだけでなく、事業主自身を守ることにもつながります。
労働保険(労災保険・雇用保険)
労災保険は、従業員が仕事中や通勤中にケガや病気になったときに、治療費や休業中の補償をする制度です。パートやアルバイトを含め、従業員を1人でも雇えば加入するのが原則です。未加入のまま労災事故が起きると、事業主が保険給付の費用を負担しなければならない場合があります。
雇用保険は、従業員が退職したときの失業給付などの制度で、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上雇用される見込みの人が対象です。なお、個人事業主本人や、同居の家族は、原則として労働保険の対象になりません。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)
個人事業所は、常時5人以上の従業員を使用し、法律で定められた業種(製造業、小売業、建設業など)の場合に、社会保険の強制適用事業所になります。飲食店や美容室などのサービス業の一部や農林水産業は、5人以上でも強制適用の対象外です。対象外の事業所でも、従業員の半数以上の同意を得て申請すれば、任意で加入できます。
元の記事では、パート・アルバイトも「週20時間以上・月額賃金8.8万円以上・1年以上の雇用見込み・学生でない」を満たせば加入対象としていましたが、この短時間労働者の基準は、現在は従業員51人以上の事業所など(特定適用事業所)が対象で、雇用見込みの要件も「2か月超」に見直されています。小規模な個人事業所の場合は、原則として、正社員の4分の3以上の時間・日数で働く人が加入対象です。
なお、特定適用事業所の人数要件は、2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上へと段階的に引き下げられ、月額8.8万円以上の賃金要件は2026年10月に撤廃される予定です(日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」)。従業員を増やす予定がある方は、最新の情報を年金事務所で確認しましょう。
なお、個人事業主本人は、健康保険・厚生年金には加入できず、国民健康保険と国民年金のままです。
個人事業主が選択できるインボイス制度とは?

2023年10月にインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まりました。インボイス制度では、買手が消費税の仕入税額控除を受けるために、原則として売手が発行した「適格請求書(インボイス)」の保存が必要です。インボイスには登録番号や適用税率、消費税額などを記載する必要があり、発行できるのは税務署に登録した「適格請求書発行事業者」だけです(国税庁「インボイス制度の概要」)。
開業から2年間は原則として消費税が免除される
消費税は、前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下なら、原則として納税が免除されます。新しく開業した個人事業主は基準期間の売上がないため、開業した年と翌年は原則として免税事業者です(前年1月〜6月の売上と給与がともに1,000万円を超える場合などを除く)。ただし、インボイス登録をすると、売上の規模にかかわらず課税事業者となり、消費税の申告・納税が必要になります。
インボイス登録したほうがいい?
| 登録する場合 | 登録しない場合 | |
|---|---|---|
| 取引先への影響 | 取引先が仕入税額控除を受けられ、取引を続けやすい | 取引先の消費税負担が増え、値下げや取引の見直しを求められることも |
| 自分の消費税 | 申告・納税が必要(開業直後の免税期間でも) | 納税は免除(売上1,000万円以下の場合) |
| 経理の手間 | インボイスの発行・保存のルールに対応が必要 | 従来どおり |
| 向いている人 | 取引先の多くが事業者(BtoB) | お客様の多くが一般消費者(BtoC) |
インボイス登録をするかどうかは任意です。主な取引先が消費税を納める事業者の場合、あなたが登録していないと取引先は仕入税額控除を受けられず、取引の見直しや値下げの交渉をされる可能性があります。一方、美容室や飲食店、個人向けの教室など、お客様の多くが一般消費者の場合は、登録しなくても影響は限られます。
- 取引先の多くが企業・事業者(BtoB)か
- 取引先からインボイス対応を求められている、または求められそうか
- 将来、法人との取引や事業の拡大を考えているか
- 会計ソフトを使い、請求書のルールを見直せるか
- 3つ以上当てはまるなら登録を前向きに、0〜2つなら未登録も選択肢。BtoBとBtoCが半々なら、登録・未登録それぞれの損得を試算して判断

2割特例は2026年分まで、2027年分からは3割納税
免税事業者がインボイス登録をして課税事業者になった場合、納める消費税を売上にかかる消費税の2割にできる「2割特例」があります。2割特例は2026年9月30日を含む課税期間(個人事業主は2026年分)までの措置です。令和8年度税制改正で、個人事業者は2027年分・2028年分について、売上にかかる消費税の3割を納める措置が設けられました(財務省「令和8年度税制改正の大綱」)。これから開業して登録する方は、3割納税や簡易課税制度も含めて、どの計算方法が有利かを試算しておきましょう。
また、登録しない免税事業者から仕入れる側は、経過措置により仕入れにかかる消費税の一定割合を控除できます。この割合は2026年9月30日までが80%で、2026年10月1日からは70%に下がり、その後も段階的に縮小されます(国税庁「No.6498」)。
▶ あわせて読みたい:【2026年度税制改正】インボイス2割特例後の「3割納税」と経過措置延長
インボイスの登録方法
インボイス発行事業者になるには、納税地を管轄する税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出します。e-Taxでのオンライン申請のほか、郵送や窓口での提出もできます。登録されると登録番号(T+13桁)が通知されるので、請求書や領収書に記載します。免税事業者が年の途中から登録する場合は、申請書に登録を受けたい日を記載して提出するのが一般的です。登録の時期や手続きに迷う場合は、税務署や税理士に相談しましょう。
まとめ

個人事業主として開業するには、事業計画や資金調達、各種届出、保険・年金の切り替え、備品の準備など、多くの準備が必要です。やることをリストにして、一つずつ進めていきましょう。
2026年1月からは開業届の提出期限が「その年分の確定申告期限まで」に変わりましたが、青色申告承認申請書は開業から2か月以内が期限です。健康保険の切り替えは、国民健康保険が14日以内、任意継続が20日以内と期限が短いので注意しましょう。
開業資金の負担を抑えるには、日本政策金融公庫の融資や補助金の活用、自宅開業、青色申告特別控除などが有効です。インボイス制度への対応は、取引先が事業者中心か消費者中心かを軸に、2027年分からの3割納税も含めて早めに検討しておきましょう。
開業準備で迷ったら
福岡の野村税理士事務所では、開業届・青色申告承認申請書などの届出、事業計画書の作成や創業融資のサポート、インボイス登録の判断から、クラウド会計の導入、確定申告まで一貫してお手伝いしています。freee認定アドバイザーとして開業直後から記帳の仕組みを整え、毎月の数字をAIで分析する「AI月次分析レポート」で、開業後の売上・利益・資金繰りをわかりやすくお伝えします。
参考資料:国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」/国税庁「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」/e-Gov法令検索「所得税法」/国税庁「No.2070 青色申告制度」/国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」/国税庁「No.2260 所得税の税率」/日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」/日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」/日本年金機構「適用事業所と被保険者」/国税庁「インボイス制度の概要」/国税庁「No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)」/財務省「令和8年度税制改正の大綱(個人所得課税)」/財務省「令和8年度税制改正の大綱(消費課税)」
※本記事は2026年9月時点の公表情報をもとに作成しています。税額の計算例は目安であり、個別の状況によって結果は異なります。具体的な判断は税理士等の専門家にご相談ください。

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野村税理士事務所代表 野村真一
税理士業界23年、野村税理士事務所代表でfreee認定アドバイザー。日本税理士会連合会、九州北部税理士会所属。認定経営革新等支援機関の認定事業者として事業再構築補助金の申請支援を行う。
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