「帳簿って手書きでもいいの?」
「会計ソフトを使わずにノートで記録しても問題ない?」
「手書きで帳簿をつけるときのポイントを知りたい!」
そんな疑問を抱いている個人事業主の方も多いのではないでしょうか。
帳簿付けは、確定申告を行ううえで欠かせない作業ですが、実は手書きでも法的には認められています。
ただし、手書きにはメリットもある一方で、記入ミスや集計の手間などのデメリットも存在します。
効率的に帳簿を管理するためには、それぞれの特徴を理解しておくことが大切です。
この記事では、個人事業主が手書きで帳簿をつける際のメリット・デメリットから、正しい書き方や注意点まで詳しく解説します。自分に合った方法で帳簿管理を行いたい方は、ぜひ参考にしてください。
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個人事業主は帳簿をつける義務がある
個人事業主として事業を運営する場合、帳簿を付けることは法律で定められた義務です。
所得税法により、事業所得、不動産所得、または山林所得があるすべての事業者は、日々の取引を記録し、帳簿書類を保存しなければなりません。
これは、確定申告の方法が青色申告か白色申告かに関わらず、すべての事業者に適用されます。
また、帳簿を付けることで、事業の財政状況や経営成績を客観的に把握し、健全な事業運営に役立てることができます。
そもそも帳簿とは?
帳簿とは、事業における日々の取引内容を記録するためのノートや書類全般を指します。
具体的には、売上や仕入れ、経費の支払いといったお金の出入りを、日付順に整理して記録したものです。
帳簿には、すべての取引を記録する「主要簿」と、特定の取引を詳しく記録する「補助簿」に大別されます。
主要簿には、複式簿記で用いる「仕訳帳」や「総勘定元帳」があり、一方で補助簿には、「現金出納帳」「預金出納帳」「売掛帳」「買掛帳」などがあり、必要に応じて作成します。
帳簿を付ける第一の目的は、正確な所得金額を算出し、確定申告書を作成することです。
さらに、帳簿はお金の流れを可視化する役割も果たします。
経営状況を正確に把握し、資金繰りの計画や経営判断の材料として活用するための事業運営に不可欠なツールです。
すべての個人事業主が帳簿をつけなければならない理由
所得税法では、事業所得、不動産所得、山林所得を生ずべき業務を行うすべての方は、取引を記録した帳簿を備え付け、取引に伴い作成・受領した書類とともに保存しなければならないと定められています。
そのため、帳簿付けはすべての個人事業主の義務です。
この義務は、青色申告者だけでなく、白色申告者にも適用されます。
また、帳簿は、確定申告の際に所得金額を計算するための基礎資料であり、税務署に対して、申告内容が正確であることを証明するための客観的な証拠になるのです。
万が一、税務調査が入った場合、帳簿がなければ申告内容の正当性を主張することが困難になります。
経費の計上が認められなかったり、申告内容全体の信頼性が低いと判断されたりするリスクを避けるためにも、すべての個人事業主は日々の取引を正確に記帳する必要があります。
帳簿をつけなかった場合のペナルティ
帳簿付けの義務を怠った場合のペナルティとして、以下が挙げられます。
- 青色申告の承認取り消し
- 過少申告加算税
- 無申告加算税
- 重加算税
- 延滞税
まず、青色申告を行っている場合、帳簿の備え付けや保存が適切でないと、青色申告の承認が取り消されることがあります。
承認が取り消されれば、最大65万円の青色申告特別控除や、赤字の繰り越しといった特典が受けられません。
また、税務調査によって申告漏れが発覚した場合、本来納めるべき税金に加えて追徴課税が課されます。
申告額が少なかった場合には「過少申告加算税」、申告自体をしていなかった場合には「無申告加算税」が課される可能性があります。
さらに、意図的に所得を隠していたと判断されると、最も重い「重加算税」の対象となるため注意が必要です。
そのほか、追徴税額には納付が遅れた日数に応じた「延滞税」も加算されるため、金銭的な負担は非常に大きくなります。
帳簿の付け方は「単式簿記」と「複式簿記」の2種類
個人事業主が用いる帳簿の付け方には、大きく分けて「単式簿記」と「複式簿記」の2種類が存在します。
単式簿記は、お小遣い帳のように一つの項目に着目してお金の出入りを記録するシンプルな方法で、主に白色申告で用いられます。
一方、複式簿記は、一つの取引を原因と結果の2つの側面から捉えて記録する、より複雑で正確な方法です。
それぞれの記帳方法について詳しく解説します。
①単式簿記(簡易式簿記)の特徴
単式簿記は、一つの勘定科目に絞って収入と支出を記録していく、非常にシンプルな記帳方法です。「簡易式簿記」とも呼ばれます。
家計簿やお小遣い帳をイメージすると分かりやすく、いつ・何に・いくら使ったかというお金の増減を一直線に記録します。
例えば、「4月10日、文房具代、1,000円」のように、取引内容と金額を記録するだけです。
単式簿記の最大のメリットは、簿記の専門知識がなくても直感的に理解でき、手軽に始められる点にあります。
主に白色申告を行う個人事業主に採用されており、確定申告の際に提出する収支内訳書を作成するための基礎となります。
ただし、取引の背景にある資産や負債の動きまでは記録しないため、事業の財産状況を詳細に把握することはできません。
事業規模が比較的小さく、まずは帳簿付けの習慣をつけたいという方に適した方法です。
②複式簿記の特徴
複式簿記は、一つの取引を原因と結果の2つの側面から捉え、複数の勘定科目を使って記録する記帳方法です。
すべての取引を「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」に分けて仕訳を行うのが大きな特徴です。
例えば、現金で備品を購入した場合、「備品(資産)が増えた」という結果と、「現金(資産)が減った」という原因を同時に記録します。
この方法により、お金の出入りだけでなく、財産がどのように変動したかまでを正確に追跡できます。
最終的に、帳簿の記録をもとに損益計算書と貸借対照表という財務諸表を作成することができ、事業の経営成績と財政状態を詳細に把握することが可能です。
作成には専門的な知識が必要で手間もかかりますが、青色申告で最大65万円または55万円の特別控除を受けるためには、複式簿記による記帳が法律で義務付けられています。
帳簿を手書きで作成する方法
現代では会計ソフトが普及していますが、手書きで帳簿を作成することも依然として有効です。
手書きの作業は、一つひとつの取引と向き合うため、簿記の仕組みやお金の流れを根本から理解するのに役立ちます。
手書きで帳簿を始めるには、まずノートや筆記用具を準備し、記帳のルールを定める必要があります。
また、白色申告と青色申告では、作成すべき帳簿の種類や記載の細かさが異なり、白色申告は簡易的な記帳で済みますが、青色申告で高い控除を受けるには複式簿記という複雑な記帳が必要です。
自身の申告方法を確認し、それに合わせた正しい手順で作成を進める必要があります。
手書きで帳簿を作るための準備(ノート・ルール設定など)
手書きで帳簿作成を始めるには、まず必要な道具を揃えることから始めます。まずは以下を用意しましょう。
- ノート(会計帳簿や大学ノートなど)
- 筆記用具(鉛筆やボールペン)
- 計算用の電卓
- 定規
など
ノートは、後から見返しやすいように、ルーズリーフを使って科目ごとに分けたり、年度ごとに色を変えたりする工夫も有効です。
次に、記帳をスムーズに進めるためのルールを設定します。
事業でよく使う経費の勘定科目をあらかじめリストアップしておくと、仕訳の際に迷いにくくなります。
また、「レシートを受け取ったらすぐに記入する」「月末に必ず集計する」といった作業のタイミングを決めておくと、記帳漏れや作業の遅延を防げるのでおすすめです。
受け取った領収書や請求書は、日付順に整理してファイルにまとめておき、いつでも帳簿と照合できるように保管しておきましょう。
白色申告の場合の書き方
白色申告で提出する収支内訳書を作成するため、手書き帳簿では単式簿記(簡易簿記)を用います。
家計簿のような形式で、日々の収入と支出を記録していくのが基本です。
ノートに見開きでページを使い、左ページに収入、右ページに支出を記入すると分かりやすいでしょう。
各ページには日付・勘定科目・摘要・金額の欄が必要です。
例えば、商品が売れて現金が入金されたら、収入のページに日付、勘定科目「売上」、摘要「A社 商品代金」、金額を記入します。
経費で文房具を購入したら、支出のページに日付、勘定科目「消耗品費」、摘要「ボールペン購入」、金額を記入します。
摘要欄には、取引相手や内容を具体的に書いておくと、後で見返したときに分かりやすいです。
月末や年末には、勘定科目ごとに金額を集計し、収支内訳書の該当箇所に転記することで、申告の準備ができます。
青色申告の場合の書き方
青色申告で最大65万円または55万円の特別控除を受けるには、正規の簿記の原則、すなわち複式簿記での記帳が必須です。
手書きで行う場合、主に仕訳帳と総勘定元帳の2つの主要簿を作成します。
まず、日々のすべての取引を発生順に仕訳帳へ記録します。取引を借方と貸方に分け、勘定科目と金額を記入する作業です。
例えば、現金10万円を事業用の普通預金に入金した場合、「(借方)普通預金 100,000円/(貸方)現金 100,000円」と仕訳します。
次に、仕訳帳に記録した内容を総勘定元帳へ転記します。
総勘定元帳は勘定科目ごとにページが分かれており、仕訳帳の普通預金の仕訳を総勘定元帳の普通預金のページへ、現金の仕訳を現金のページへ書き写す作業です。
この作業をすべての取引について行うことで、最終的に損益計算書と貸借対照表を作成できます。
帳簿を手書きで付けるメリット
会計ソフトの利用が一般的になる中でも、あえて帳簿を手書きで付けることには、次のようなメリットがあります。
- 簿記の知識が自然と身につく
- 経営状況を深く理解できる
- パソコンに不慣れでも始められる
それぞれ詳しく解説します。
メリット①簿記の知識が自然と身につく
手書きで帳簿を付ける最大のメリットは、簿記の基本的な仕組みが自然と身につく点です。
会計ソフトは取引内容を入力すれば自動で処理してくれるため便利ですが、仕訳や転記のプロセスが見えにくい側面があります。
一方、手書きの場合は、取引が発生するたびに「どの勘定科目に該当するのか」「借方と貸方のどちらに記入するのか」を自分で考えなければなりません。
また、仕訳帳から総勘定元帳へ一つひとつ転記する作業を通じて、勘定科目間のつながりやお金の流れを体感的に理解できます。
手間のかかる作業ですが、この地道な繰り返しが簿記の本質的な理解につながります。
会計の基礎知識をしっかりと固めたいと考えている初心者の方にとって、手書きでの帳簿作成は非常に効果的な学習方法と言えるでしょう。
メリット②経営状況を深く理解できる
手書きで帳簿を付ける作業は、自社の経営状況をより深く、リアルに把握することにつながります。
毎日、自分の手で売上や経費の数字をノートに書き込むことで、数字に対する意識が格段に高まります。
会計ソフトが自動で作成したグラフを眺めるだけでは得られない、一つひとつの数字の重みを実感できるのです。
例えば、「今月は広告宣伝費が増えているな」「この仕入先からのコストが高いかもしれない」といった具体的な気づきが生まれやすくなります。
日々の記帳を通じてお金の流れを常に意識することで、無駄な経費の削減や、収益性の高い事業への注力など、具体的な経営改善のアクションにつながることも少なくありません。
手書きの帳簿は、単なる記録ではなく、事業をより良くするための強力な分析ツールとなり得るのです。
メリット③パソコンに不慣れでも始められる
パソコン操作に苦手意識を持つ方にとって、手書きの帳簿付けは非常に魅力的な選択肢です。
会計ソフトを導入するには、まずどのソフトが良いかを選び、パソコンにインストールし、口座連携などの初期設定を行う必要があります。
さらに、ソフト独自の操作方法を覚えなければならず、これらの作業がハードルとなって帳簿付けを後回しにしてしまうケースも少なくありません。
その点、手書きであれば、ノートとペン、電卓さえあれば、思い立ったその日からすぐにでも帳簿付けをスタートできます。
導入コストがほとんどかからない点も大きなメリットです。
ソフトウェアのアップデートや、パソコンのトラブルに悩まされる心配もありません。
帳簿を手書きで付けるデメリット
手書きでの帳簿付けは、簿記の理解を深めるなどのメリットがある反面、無視できないデメリットも存在します。
- 記入や計算に時間がかかる
- 書き間違いや転記ミスのリスク
- 保管スペースが必要になる
それぞれ詳しく解説します。
デメリット①記入や計算に時間がかかる
手書き帳簿の最大のデメリットは、作業に多くの時間がかかるという点です。
日々の取引を一つひとつノートに手で書き写し、電卓を使って勘定科目ごとに集計する作業は、非常に地道で根気を要します。
特に、月末や確定申告の時期には、一年分の取引を集計し、決算書を作成する必要があるため、作業は膨大な量になります。
個人事業主は、本来の事業活動に加えて経理作業も一人でこなさなければなりません。
帳簿付けに時間を取られすぎてしまうと、売上を上げるための活動や、サービスの質を向上させるための時間が圧迫される恐れがあります。
デメリット②書き間違いや転記ミスのリスク
手書きの帳簿作成には、人為的なミスが発生するリスクが常に伴います。
数字の書き間違い、桁数の誤り、勘定科目の選択ミス、そして仕訳帳から総勘定元帳への転記ミスなど、間違いが起こりうる箇所は数多く存在します。
たった一つの小さなミスが、最終的な合計金額の不一致を引き起こし、その原因箇所を特定するために、すべての記録を見直すという膨大な手間が発生することもあります。
特に複式簿記において、借方と貸方の合計が合わなくなった場合の原因究明は非常に困難な作業です。
会計ソフトであれば、入力ミスや計算ミスをシステムが自動でチェックしてくれる機能がありますが、手書きの場合はすべての確認作業を自分自身で行わなければなりません。
デメリット③保管スペースが必要になる
法律により、帳簿やその取引に関する書類(領収書、請求書など)は、長期間の保存が義務付けられています。
青色申告の場合は原則7年間、白色申告の場合でも5年間の保存が必要です。
手書きの帳簿はすべて紙の書類であるため、これらの書類を保管するための物理的なスペースを確保しなければなりません。
事業を継続していくと、保管すべき書類は年々増え続け、書棚やファイルボックス、段ボール箱などが事務所や自宅のスペースを圧迫していきます。
また、紙の書類は、湿気によるカビや虫食い、日光による劣化、さらには火災や水害による紛失のリスクにも備える必要があります。
一方、会計ソフトやクラウドサービスを利用して電子データとして保存すれば、物理的な保管スペースは不要となり、検索も容易になります。
手書きで帳簿を付ける際の注意点
手書きで帳簿を付けると決めたなら、作業を効率的かつ正確に進めるために、いくつかの注意点を押さえておくことが大切です。
- 書き間違いを防ぐ工夫をする
- 見本帳簿やテンプレートを参考にする
- 青色申告の要件を満たす形式にする
それぞれの注意点について詳しく解説します。
注意点①書き間違いを防ぐ工夫をする
手書き帳簿の正確性を保つためには、書き間違いを未然に防ぐ工夫が不可欠です。
まず、筆記用具として、修正が簡単な鉛筆や消せるボールペン(フリクションペン)を使うことをおすすめします。
ただし、最終的に提出する清書書類は改ざんできないボールペンで書くのが原則です。
数字を記入する際は、後から見返しても読み間違えないよう、丁寧な字で書くことを心がけましょう。
桁を揃えて書くと、計算ミスを防ぐのに役立ちます。また、取引があったらその日のうちに記帳する「都度記帳」を徹底することが重要です。
数日分をまとめて記帳しようとすると、記憶が曖昧になったり、領収書を紛失したりするリスクが高まります。
週末や月末など定期的に合計金額を計算し、残高と照合する習慣をつけることも早期にミスを発見するための有効な手段です。
注意点②見本帳簿やテンプレートを参考にする
初めて帳簿を手書きで作成する場合、何から手をつけて良いか分からないことも多いでしょう。
そのようなときは、市販の会計帳簿や、インターネットで公開されている無料のテンプレートを参考にすることをおすすめします。
市販の会計帳簿には、あらかじめ必要な項目が印刷されており、勘定科目の一覧や記入例が付属しているものもあります。
これらを利用すれば、帳簿の形式を考える手間が省け、すぐに記帳を始められます。
また、国税庁のウェブサイトや会計情報サイトでは、エクセル形式の帳簿テンプレートが配布されていることがあります。これを印刷して使うのも一つの手です。
見本やテンプレートを参考にすることで、自己流で作成して後から不備が見つかるという失敗を防ぐことができます。
注意点③青色申告の要件を満たす形式にする
青色申告で最大65万円または55万円の特別控除を受けるためには、税法で定められた要件を満たす帳簿を作成する必要があります。
手書きで作成する場合、この要件を正しく理解しておくことが極めて重要です。
具体的には、正規の簿記の原則(一般に複式簿記)に従って記帳し、すべての取引を網羅した「仕訳帳」と「総勘定元帳」を作成しなければなりません。
さらに、これらの主要簿に加えて、現金や預金の動きを記録する現金出納帳や預金出納帳、取引先との債権債務を管理する売掛帳や買掛帳といった補助簿も必要に応じて備え付ける必要があります。
そして、期末にはこれらの帳簿記録に基づいて、損益計算書と貸借対照表作成し、確定申告書に添付します。
形式が不十分だと特別控除が受けられなくなるため、注意が必要です。

インボイス制度による手書き帳簿への影響とは?
2023年10月に開始されたインボイス制度は、手書きで帳簿を付けている個人事業主にも大きな影響を及ぼします。
特に、消費税の課税事業者としてインボイス(適格請求書)発行事業者の登録をした場合、帳簿の記載内容に新たな要件が加わりました。
消費税の仕入税額控除の適用を受けるためには、従来の記載事項に加え、取引相手のインボイス発行事業者登録番号などを帳簿に記録する必要が生じます。
手書きの帳簿を使用している場合、これらの追加情報を記入するための欄を新たに設けるなどの対応が求められます。
また、受け取ったインボイス自体も保存義務があるため、領収書などと共に整理・保管する手間が必要です。
制度の要件を満たしていないと、仕入税額控除が認められず納税額が増えてしまう可能性があるため、手書きであっても正確な対応が不可欠です。
インボイス対応で求められる帳簿のポイント
インボイス制度に対応し、仕入税額控除を正しく受けるためには、手書き帳簿の記載方法を一部見直す必要があります。
課税仕入れに関する帳簿の記載で重要なポイントは、従来の「取引年月日」「取引内容」「取引金額」「取引相手の氏名・名称」に加えて、取引相手がインボイス発行事業者である場合、その登録番号を追記することです。
摘要欄に記載するか、新たに登録番号欄を設けて管理します。
また、売上に関しては、税率ごとの管理がより重要になり、軽減税率(8%)と標準税率(10%)の対象となる商品を両方扱っている場合、売上を税率ごとに区分して帳簿に記載し、それぞれの消費税額を正確に計算できるようにしておく必要があります。
受け取ったインボイスと帳簿の記載内容を照合できるように、整理して保存することも忘れてはなりません。
帳簿作成を効率化したいときの選択肢
手書きでの帳簿作成は、簿記の理解を深める一方で、時間と手間がかかるという大きな課題があります。
事業が成長し取引件数が増えるにつれて、手作業の限界を感じる個人事業主は少なくありません。
記帳作業の負担を軽減し、より本業に集中するためには、以下のような帳簿作成の効率化を検討することが重要です。
- エクセルを使った帳簿付け
- 会計ソフトを活用する
それぞれ詳しく解説します。
①エクセルを使った帳簿付け
手書きからのステップアップとして、まず考えられるのがエクセルを利用した帳簿付けです。
エクセルを使えば、手書きの最大の課題であった計算作業を自動化できます。
SUM関数などを使えば、合計金額の計算ミスがなくなり、集計作業の時間が大幅に短縮されます。
インターネット上には、白色申告用や青色申告用の帳簿テンプレートが無料で数多く配布されており、ダウンロードすればすぐに利用可能です。
手書きの自由度を残しつつ、計算の正確性と速さを手に入れられるのがエクセルの魅力です。
ただし、仕訳のルールや勘定科目の知識は依然として必要であり、複式簿記の場合は仕訳帳から総勘定元帳への転記作業なども手動で行う必要があります。
また、インボイス制度などの法改正があった場合、自分でテンプレートを更新しなければならない点には注意が必要です。
②会計ソフトを活用する
帳簿作成の効率を最大限に高めたいのであれば、会計ソフトの活用が最もおすすめです。
特にクラウド型の会計ソフトは、月額料金で利用でき、法改正にも自動でアップデート対応してくれるため安心です。
会計ソフト最大のメリットは、簿記の専門知識が少なくても、画面の案内に従って日付や金額を入力するだけで、自動的に複式簿記の帳簿が作成される点です。
銀行口座やクレジットカードを連携させれば、取引明細を自動で取り込み、AIが勘定科目を推測して仕訳候補を提案してくれます。
日々の入力作業を続ければ、確定申告に必要な損益計算書や貸借対照表といった決算書も自動で作成されます。
手書きやエクセルに比べて、時間の大幅な節約とミスの削減が期待でき、創出した時間で本業に集中できるという大きなメリットがあります。
まとめ
個人事業主にとって、帳簿を付けることは法律で定められた義務であり、健全な事業運営の基盤となります。
手書きの記帳は、初期費用がかからず、簿記の仕組みを体感的に学べるというメリットがあります。
事業開始直後で取引が少ない場合や、経理の基礎を学びたい方には適した方法です。
しかし、事業規模の拡大に伴い、記入や計算にかかる時間、ミスのリスクといったデメリットが大きくなります。
その際は、エクセルや会計ソフトへの移行を検討するのが賢明です。
自身の事業フェーズやスキルに合わせて最適な方法を選び、正確な記帳を継続することが重要です。

野村税理士事務所代表 野村真一
税理士業界20年、野村税理士事務所代表でfreee認定アドバイザー。日本税理士会連合会、九州北部税理士会所属。認定経営革新等支援機関の認定事業者として事業再構築補助金の申請支援を行う。




