「取引先への手土産って、経費で処理しても大丈夫?」
「勘定科目は交際費?それとも雑費?」
「仕訳の仕方や領収書の扱い方が分からない…」
そんな疑問を抱えている、経理担当者や個人事業主の方も多いのではないでしょうか。
手土産は取引先との関係構築やお礼の場面でよく使われる支出ですが、使い方や相手によっては経費として認められないケースもあります。
勘定科目の選定や仕訳の誤りがあると、税務調査で否認されるリスクもあるため注意が必要です。
この記事では、手土産に使う正しい勘定科目の判断基準や、経費として認められないケース、さらに仕訳例や経費計上時の注意点について詳しく解説します。実務で迷わないためにも、ぜひ最後までご覧ください。

野村税理士事務所代表 野村真一
税理士業界20年、野村税理士事務所代表でfreee認定アドバイザー。日本税理士会連合会、九州北部税理士会所属。認定経営革新等支援機関の認定事業者として事業再構築補助金の申請支援を行う。
手土産代は経費として認められる?
事業を運営する上で、取引先への手土産は円滑な関係を築くために重要です。事業に関連する手土産代は、経費として計上することが認められています。
ただし、経費として認められるためには、支出が事業の遂行上必要であったことを客観的に証明できなければなりません。
例えば、商談を目的とした訪問で菓子折りを持参した場合などが該当します。一方で、家族や友人への個人的なお土産など、事業と直接関係のない支出は経費にできません。
以下では、経費として認められるケースと認められないケースについて解説します。
経費として認められない手土産代
事業に関連しない手土産代は、経費として計上できません。代表的な例として、家族や友人への旅行土産が挙げられます。
個人的な旅行の際に購入したお土産は、事業の売上には一切貢献しないため、経費として認められません。
もし経費に計上した場合、税務調査で指摘され、修正申告や追徴課税の対象となる可能性があります。
また、事業とは関係のない知人への贈答品も同様で、個人的な付き合いの範囲と見なされるため、経費計上は不可能です。
さらに、事業に関連する手土産であっても、社会通念上あまりに高額な品物は経費として認められないことがあります。
例えば、数十万円もする美術品などを手土産とした場合、その金額の妥当性が問われやすいため注意が必要です。
経費として認められる手土産代
事業の遂行に関連する目的で購入した手土産代は、経費として認められます。
最も一般的なケースは、取引先への訪問時に持参する菓子折りです。
商談や打ち合わせを円滑に進める目的があるため、事業に必要な支出と判断されやすく、経費処理の際は勘定科目は「接待交際費」として処理するのが適切です。
そのほか、社内会議や取引先との打ち合わせの際に、参加者に提供するお茶やお菓子、不特定多数の人々に対して配布するノベルティグッズも経費になります。
ただし、手土産の内容や配布対象によって勘定科目が異なるため、経費処理する際は適切な勘定科目を選択することが重要です。
手土産代を経費にするときの注意点は?個人事業主と法人別で異なる
手土産代を経費として計上する際のルールは、個人事業主と法人で異なります。
それぞれ詳しく解説します。
個人事業主:高額な手土産やプライベート利用は経費にできない
個人事業主が手土産代を経費として計上する際、最も重要なのは事業との関連性です。
事業を営む上で必要不可欠な支出であることが大前提となるため、家族旅行のお土産や友人への個人的なプレゼントなど、プライベートな目的で購入したものは経費にできません。
個人事業主は事業と私生活の境界が曖昧になりがちですが、税務上は厳密な区別が求められます。
また、取引内容に対して不相応に高価な贈答品は、社会通念を逸脱するほど高額な品物は、個人的な支出と見なされるリスクがあるため注意が必要です。
経費の正当性を証明するためにも、領収書には渡した相手や目的をメモしておきましょう。
法人:損金算入の制限を考慮する必要がある
法人が手土産代を「接待交際費」として処理する場合、税法上の損金算入限度額を意識する必要があります。
損金とは、法人税を計算する上で収益から差し引くことができる費用のことです。
接待交際費は原則として損金に算入できませんが、飲食を伴う費用については50%まで損金算入が認められています。
また、資本金1億円以下の法人は、年間800万円までの範囲で全額損金算入できる特例が設けられています。
一方で、資本金1億円を超える法人は、手土産代を含む交際費について損金算入の特例がなく、全額が原則として損金不算入です。
また、年間の交際費が上限を超えた場合、超過分は損金として認められず、その分だけ法人税の負担が増加します。
そのため、法人は年間の交際費の総額を常に把握し、計画的に支出を管理することが重要です。
手土産代の仕訳に使う勘定科目はどれ?手土産代の勘定科目の種類
手土産代を会計処理する際、使用する勘定科目は一つではありません。
手土産代の仕訳で主に使用される勘定科目は、主に以下があります。
- 接待交際費
- 会議費
- 広告宣伝費
- 福利厚生費
支出の目的や手土産を渡す相手によって、適切な勘定科目を使い分ける必要があります。それぞれ詳しく解説します。
①接待交際費
接待交際費は、得意先や仕入先など、事業に関係のある相手を接待したり、贈り物をするために支出する費用のことです。
手土産代の仕訳において、最も一般的に使用される勘定科目で、具体的な例としては、取引先への訪問時に持参する以下のものが該当します。
- 菓子折り
- お中元
- お歳暮
- 開店祝いの品物
など
これらの支出は、取引関係を円滑にし将来の売上につながる可能性があるため、特定の相手との関係を深めるための贈答は、接待交際費として処理するのが適切です。
なお、法人の飲食費については、2024年4月1日以後に支出した1人あたり1万円以下のものは、一定の要件のもと交際費等から除外され、原則損金算入となります。ただし、これは飲食費に限る特例で、手土産(物品の贈答)は対象外です。特定の相手への贈答は、金額にかかわらず交際費等として処理するのが原則です。
ただし、個人事業主にはこの特例は適用されず、また物品の贈答は対象外です。
手土産のような物品の贈答は、相手が特定の取引先である場合には、金額の大小にかかわらず接待交際費として計上するのが原則です。
ただし、配布対象が不特定多数であったり、社内向けであったりする場合は、会議費・広告宣伝費・福利厚生費として処理するケースもあります。
②会議費
会議費は、社内での会議や取引先との打ち合わせなど、業務に関連する会議に際して、飲食物を提供するために通常要する費用を処理するための勘定科目です。
例えば、会議の場で消費される以下のような手土産代が該当します。
- お茶
- コーヒー
- お菓子
など
重要なのは、あくまで会議を円滑に進行させるための付随的な費用であるという点です。
長時間の会議で参加者のために用意した軽食や飲み物は、会議費として計上できます。
また、会議費は接待交際費とは異なり、損金算入の限度額がないため、適切に使い分けることが節税につながります。
ただし、会議の実態がないにもかかわらず会議費として処理したり、社会通念上高額すぎる弁当やアルコール類を提供したりした場合は、税務調査で接待交際費として指摘される可能性があるため注意が必要です。
③広告宣伝費
広告宣伝費は、不特定多数の消費者や顧客に対して、自社の商品やサービスを広く宣伝するために支出する費用を処理する勘定科目です。
例えば、以下のような社名やロゴが入ったノベルティグッズの制作費用が広告宣伝費に該当します。
- カレンダー
- タオル
- ボールペン
など
また、展示会やセミナーなどのイベントで、来場者に配布する記念品も広告宣伝費として処理します。
広告宣伝費と接待交際費の大きな違いは、配布する対象が「不特定多数」であるか「特定の相手」であるかという点です。
幅広い層に自社をアピールすることが目的であれば広告宣伝費となります。
また、接待交際費と異なり、広告宣伝費には損金算入の上限がありません。
ただし、特定の取引先にだけ高価な社名入りグッズを渡すような場合は、宣伝目的ではなく贈答と見なされ、接待交際費に該当する可能性があるので注意が必要です。
④福利厚生費
福利厚生費は、従業員の労働環境の改善や勤労意欲の向上を目的として、給与や賞与以外に支出する費用を処理するための勘定科目です。
手土産代が福利厚生費として認められるケースは、主に従業員に向けた支出である場合です。
例えば、「出張に行った従業員が、会社で働く他の従業員のために購入したお土産代」などが該当します。
また、創立記念日や忘年会などの社内行事で、従業員全員に記念品を配布する場合も福利厚生費として処理できます。
福利厚生費として認められるためには、「全従業員を対象として公平に支出されること」と「社会通念上、妥当な金額であること」という2つの要件を満たす必要があります。
特定の従業員だけに高価な品物を渡した場合は、その従業員への給与(現物給与)と見なされ、所得税の課税対象となる可能性があるため注意が必要です。
なお、個人事業主本人や青色事業専従者等への支出は福利厚生費の対象外が原則です(従業員向けが前提)。
【事例別】手土産代を経費にするときの仕訳例
これまで解説した勘定科目の使い分けについて、具体的に次の事例をもとに仕訳例を紹介します。
- 取引先へ菓子折りを渡した場合
- 会議で茶菓子を提供した場合
- 顧客向けに名入りグッズを配布した場合
- 出張先で社員にお土産を購入した場合
順を追って解説します。
①取引先へ菓子折りを渡した場合
取引先との良好な関係を維持するために、訪問時に菓子折りを持参するケースはよくあります。
取引先へ菓子折りを渡したときの支出は、特定の相手との関係を円滑にするための贈答と見なされるため、「接待交際費」として処理します。
例えば、取引先であるA社を訪問する際に、手土産として3,000円の菓子折りを現金で購入した場合の仕訳は以下の通りです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 接待交際費 | 3,000円 | 現金 | 3,000円 |
仕訳を記帳する際は、摘要欄に「A社訪問時の手土産代」のように、渡した相手や目的を具体的に記載しておくことが重要です。
後から帳簿を見返したときに取引内容がすぐに分かり、税務調査の際にも支出の正当性をスムーズに説明できます。
なお、もし支払いをクレジットカードで行った場合は、貸方の勘定科目は「未払金」となります。
②会議で茶菓子を提供した場合
社内外の会議を円滑に進める目的で、参加者に飲み物やお菓子を提供した場合の費用は、会議の開催に付随して発生する費用であるため、「会議費」として処理します。
例えば、社内での定例会議において、参加者10名分のお茶とお菓子を2,000円分、現金で購入した場合の仕訳は以下のようになります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 会議費 | 2,000円 | 現金 | 2,000円 |
会議費として経費計上するためには、その会議が事業に関連するものであることを証明できる状態にしておくことが望ましいです。
議事録や参加者リストなどの資料を保管しておくと、客観的な証拠として役立ちます。
摘要欄には「〇月〇日 定例会議用茶菓子代」などと記載し、いつ、何の目的で支出した費用なのかを明確にしておきましょう。
③顧客向けに名入りグッズを配布した場合
自社の商品やサービスを広く知ってもらうために、不特定多数の潜在顧客に向けて宣伝活動を行うことがあります。
その一環として、社名入りのグッズを配布した場合の費用は、「広告宣伝費」として処理します。
例えば、展示会のブースで来場者に配布するため、社名入りのボールペンを50,000円分作成し、代金を普通預金から振り込んだ場合の仕訳は以下の通りです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 広告宣伝費 | 50,000円 | 普通預金 | 50,000円 |
広告宣伝費として処理するポイントは、配布対象が不特定多数であることです。
摘要欄には「〇〇展示会 配布用ノベルティグッズ代」のように、配布したイベント名や目的を具体的に記録しておきましょう。
④出張先で社員にお土産を購入した場合
従業員の慰安や勤労意欲の向上を目的とした支出は、「福利厚生費」として処理できます。
出張に行った従業員が、留守を守る他の従業員のために職場へのお土産を購入した場合も、一定の条件を満たせば福利厚生費として認められます。
例えば、従業員が出張先で会社へのお土産として1,500円のお菓子を購入し、その代金を現金で立て替えた場合の仕訳は以下のようになります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 福利厚生費 | 1,500円 | 従業員立替金 (または未払金) | 1,500円 |
(会社の現金から直接支払った場合、貸方は「現金」と記載します)
福利厚生費として計上するためには、全従業員(部署単位や支店単位でもよい)を対象としていることと、金額が社会通念上妥当であることが重要です。
特定の従業員のためだけに購入した場合や、あまりに高額な品物の場合は給与と見なされる可能性があります。
手土産代の領収書を管理するときのポイント
手土産代の領収書を管理するときのポイントは、主に次の2つです。
- 領収書の記載事項を確認しておく
- 整理して保管しておく
それぞれ詳しく解説します。
ポイント①領収書の記載事項を確認しておく
領収書を受け取った際には、その場で必要な情報が正しく記載されているかを確認する習慣をつけましょう。
後から不備に気づいても、修正や再発行を依頼するのは手間がかかるためです。
必要な確認項目として、経費の証拠として認められるためには一般的に以下の項目が必要です。
- 発行者の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引内容(購入した品物やサービスの内容)
- 金額
- 宛名(自社の正式名称)
特に、「但し書き」は、「お品代として」のような曖昧な表記ではなく、「菓子折り代として」など、できるだけ具体的な内容を記載してもらうことが望ましいです。
もしレシートしか発行されない場合は、空いているスペースに手書きで取引先の名称や手土産を渡した目的などを追記しておくと、証拠としての信頼性が高まります。
ポイント②整理して保管しておく
受け取った領収書は、紛失したり他の書類と混ざってしまったりしないよう、ルールを決めて整理・保管することが大切です。
最も一般的な方法は、月別や勘定科目別に分けてスクラップブックに貼り付けたり、ファイルに綴じたりする方法です。
日付順に整理しておくことで、後から特定の取引を探しやすくなります。
また、近年では電子帳簿保存法の要件を満たすことで、紙の領収書をスキャンしたりスマートフォンで撮影したりして、電子データとして保存することも認められています。ただし、電子保存は、真実性(改ざん防止)と検索性(取引日付・金額・相手先)の要件充足が前提です。対応したシステムや運用ルールを整備しましょう。
ペーパーレス化を進めることで、保管スペースを削減できるほか、データの検索性が向上するというのもメリットです。
なお、領収書などの証憑書類は、法人税法や所得税法により原則7年(個人の白色申告は5年)。法人で欠損金の繰越控除がある場合など、10年保存が必要なケースもあります。
手土産代の会計処理には会計ソフトの活用がおすすめ
手土産代の会計処理には会計ソフトの活用がおすすめです。主な理由は次の3つです。
- 自動仕訳機能で手土産代の入力を効率化できる
- 証憑管理や経費精算もまとめて処理できる
- 確定申告や決算書作成をスムーズに進められる
それぞれ詳しく解説します。
自動仕訳機能で手土産代の入力を効率化できる
自動仕訳機能で手土産代の入力を効率化できるのが、会計ソフトの大きなメリットです。
多くの会計ソフトには、銀行口座やクレジットカードの取引明細を自動で取り込み、仕訳を提案してくれる機能が搭載されています。
一度取引内容に応じた勘定科目を設定すれば、AIが学習し、次回以降は同じような支出に対して自動で仕訳候補を作成してくれます。
例えば、「株式会社〇〇」からのクレジットカード利用明細が取り込まれた際に、「接待交際費」として自動で仕訳を提案するように設定できます。
多くの会計ソフトでは、ユーザーが確認して承認する仕訳提案形式が基本ですが、設定によっては自動登録も可能です。
誤登録を防ぐために自動登録の設定をしていなくても、ユーザーは提案された仕訳を確認して承認するだけで記帳が完了するため、一つひとつ手入力する手間が大幅に削減されます。
結果的に日々の経理業務にかかる時間を短縮できるだけでなく、入力ミスや勘定科目の選択ミスといったヒューマンエラーを防ぐことにもつながります。
証憑管理や経費精算もまとめて処理できる
最新の会計ソフトは、単なる記帳ツールにとどまりません。証憑管理や経費精算もまとめて処理できるのも、会計ソフトのメリットの一つです。
スマートフォンのアプリと連携し、受け取ったレシートや領収書を撮影するだけで、日付や金額を自動で読み取り、電子データとして保存できる機能を備えています。
取り込んだ画像データは仕訳情報と紐づけて管理できるため、証憑の整理や確認が非常に簡単になります。
電子帳簿保存法に対応したソフトであれば、ペーパーレスでの証憑保管も可能です。
さらに、経費精算システムが統合された製品も増えています。
従業員が立て替えた手土産代などをスマートフォンから申請し、承認者がオンラインで承認、経理担当者が仕訳を作成するまでの一連のプロセスをシステム上で完結できます。
確定申告や決算書作成をスムーズに進められる
確定申告や決算書作成をスムーズに進められるのも会計ソフトの大きなメリットです。
日々の取引を会計ソフトに正確に入力しておくことで、ソフトが日々の仕訳データを自動で集計し、貸借対照表や損益計算書といった決算書類、確定申告書を自動で作成してくれます。
手作業で集計する場合に起こりがちな計算ミスや転記ミスを防ぎ、正確な書類を効率的に作成することが可能です。
また、税制改正が行われた際にも、ソフトがアップデートで対応してくれるため、常に最新の法令に基づいた申告ができます。
画面の案内に従って必要な情報を入力していくだけで申告書類が完成する製品も多く、税務に関する専門知識が豊富でなくても、安心して申告作業を進めることができるでしょう。
手土産代を経費にするときのよくある質問
まとめ
手土産代は、事業に関連するものであれば経費として計上できますが、その会計処理には正しい知識が求められます。
最も重要なポイントは、手土産を渡す目的や相手に応じて、適切な勘定科目を選択することです。
「接待交際費」「会議費」「広告宣伝費」「福利厚生費」など、それぞれの科目の意味を理解し、取引の実態に合わせて使い分けましょう。
日々の煩雑な会計処理を効率化し、ミスを防ぐためには、会計ソフトの活用をおすすめします。


