「税務調査の対象って、今はAIが選んでいるって本当?」
「調査そのものもAIがやるようになるの?」
最近、経営者の方からこうしたご質問をいただくことが増えました。
結論からお伝えすると、税務調査の「選定」には、すでにAIが使われています。国税庁が公表している最新の調査事績でも、AIを活用して調査先を抽出していることがはっきり書かれています。ただし、調査に行くかどうかを最終的に決め、帳簿を確認するのは調査官(人)です。
この記事では、国税庁の公表資料をもとに「AIと税務調査」の現状をわかりやすく整理したうえで、これからの時代に経営者が備えておくべきこと、そして私たち野村税理士事務所がAIとどう向き合っているかをお伝えします。
この記事でわかること
- 国税庁が公表している「AIを使った調査先選び」の中身
- 調査そのものもAIが行うのか(AIと調査官の役割分担)
- 令和6事務年度の数字から見える、調査の変化
- AIに「確認が必要」と判断されやすい申告の傾向
- 連絡が来たときの「簡易な接触」と「実地調査」の違い
- 経営者がいまできる4つの備え
結論:税務調査の「調査先選び」にはすでにAIが使われている
図:AIを活用した調査先選定のイメージ
国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」等をもとに当事務所作成
国税庁は毎年、前年度(事務年度:7月〜翌6月)の調査結果を公表しています。2025年に公表された令和6事務年度の資料では、法人税・所得税ともにAIの活用が明記されています。
法人税:AIの予測モデルで「調査必要度の高い法人」を抽出
法人税等の調査事績では、次のように説明されています。
AIを活用した予測モデルにより調査必要度の高い法人を抽出し、予測モデルが判定した不正パターンに加え、申告書や国税組織が保有する様々な資料情報等を併せて分析・検討した後、調査官が調査実施の要否を最終的に判断しています。
国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」
つまり、申告書や国税が集めた資料をAIが分析し、「不正のパターンに近い会社」を候補として挙げるという仕組みです。ここでいう「資料情報」には、取引先の申告内容や、金融機関・各種の法定調書などから国税が集めている情報が含まれます。自社の申告書だけでなく、周りの情報と突き合わせて見られている、と考えておくとよいでしょう。
所得税・消費税:選定にAI、不正還付の把握にもAI
個人の所得税・消費税の調査についても、「選定にAIを活用するなど、効率的かつ的確に調査等を行った」と記載されています。また消費税の不正還付についても、AIの活用を進めて的確に把握する取り組みを行っているとしています。
法人か個人事業主かを問わず、「調査先はAIを使って選ばれている」と考えておくのが現実的です。
調査そのものもAIがやるの?
- 申告書や資料情報の分析
- 不正パターンに近い先の抽出(調査必要度の判定)
- 確認すべきポイントの絞り込み
- 調査に行くかどうかの最終判断
- 帳簿・証拠書類の確認と質問
- 申告内容が正しいかどうかの判断
では、税務調査そのものをAIが行うのかというと、現時点では「AIが調査する」のではなく「AIの分析を使って調査官が調査する」という位置づけです。
国税庁は、調査官の知見にAIの分析結果を組み合わせることで、効率的で精度の高い調査を実施しているとしています。最終的に調査に行くかどうかを決めるのも、帳簿を確認して判断するのも人です。
ただし、見逃せないのは次の点です。
- 調査官は、AIや各種データの分析で「どこが怪しいか」の見当をつけたうえで調査に来る
- 国税庁は「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」の中で、ロジスティック回帰分析・決定木分析・クラスター分析・ネットワーク分析などを使って、申告漏れの可能性が高い納税者を判定する取り組みを掲げている
- 電子帳簿保存やインボイス制度の定着で、税務署が扱える取引データは今後ますます増えていく
調査の「入口」と「ポイントの絞り込み」は、すでにデータとAIが担っていると言ってよいでしょう。調査の当日に「とりあえず全部見る」のではなく、最初から特定の科目や取引先、特定の月の取引について質問される――そうした調査が増えていくと考えられます。
数字で見る「AI時代の税務調査」
| 項目 | 令和5事務年度 | 令和6事務年度 |
|---|---|---|
| 法人税等の実地調査件数 | 5万9千件 | 5万4千件 |
| 法人税・消費税の追徴税額 | 3,197億円 | 3,407億円 |
| 調査1件当たりの追徴税額(法人) | 約550万円 | 約634万円 |
| 所得税の調査等による追徴税額 | 1,398億円 | 1,431億円 |
| 所得税の簡易な接触の件数 | 55万8千件 | 68万9千件 |
出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」、国税庁「令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況」
AI活用の影響は、調査の数字にも表れています。令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)の主な数値は上の表のとおりです。

法人の実地調査の件数は減っているのに、追徴税額の総額は直近10年で最高、1件当たりの追徴税額も大きく増えています。所得税の調査等による追徴税額も過去最高となりました。
件数を増やすのではなく、AIで「問題がありそうな先」を絞り込み、1件ごとの精度を上げている。数字からはそうした方向性が読み取れます。
また、所得税では文書や電話で申告内容を確認する「簡易な接触」が55万8千件から68万9千件へ、約2割増えています。実地調査に来なくても、データの分析をもとに「この点を確認させてください」と連絡が来るケースは今後も増えていくと考えられます。
AIに「確認が必要」と判断されやすいのはどんな申告?

国税庁は、AIがどのような基準で調査先を選んでいるかを公表していません。ただ、これまでの調査実務から、一般に確認されやすいといわれるポイントはあります。
| 確認されやすいポイント | 日頃からできる準備 |
|---|---|
| 売上総利益率(粗利率)や経費の割合が、同業他社や自社の過去の傾向から大きく外れている | 毎月の粗利率・経費率を前年と比べ、ずれの理由をメモしておく |
| 前期と比べて、売上や特定の経費が急に増えた・減った | 新規取引・値上げ・設備投資など、増減の原因を記録 |
| 外注費・交際費・役員との取引など、内容の説明が必要な取引が多い | 契約書・請求書・打合せ記録など、取引の実態がわかる資料をそろえる |
| 決算期末の前後で、売上や経費の計上時期にずれがある | 納品日・検収日など計上基準を決め、期末前後の取引を確認 |
| 消費税の還付申告をしている | 還付の理由(設備投資・輸出など)と根拠資料を準備 |
| 申告すべきなのに申告していない(無申告) | 副業や不動産収入も含め、申告が必要か早めに確認 |
大切なのは、数字が大きく動いたときに「なぜ動いたのか」を説明できるかどうかです。正しく処理していても、理由を説明できなければ確認の対象になりやすくなります。逆に、増減の理由がはっきりしていて、それを裏付ける資料がそろっていれば、確認の連絡が来ても落ち着いて対応できます。

連絡が来たら:「簡易な接触」と「実地調査」の違い
| 簡易な接触 | 実地調査 | |
|---|---|---|
| どんなもの | 文書・電話・来署依頼などで申告内容を確認 | 調査官が事業所などを訪れて帳簿や書類を確認 |
| 主な内容 | 申告漏れや計算誤りの可能性がある点の確認・見直しの依頼 | 帳簿・証拠書類の確認、質問、必要に応じた修正の求め |
| 対応のしかた | 内容を確認し、誤りがあれば修正申告などで対応 | 日程を調整し、税理士の立会いのもとで対応するのが一般的 |
国税からの連絡には、大きく分けて「簡易な接触」と「実地調査」があります。AIやデータの分析で気になる点が見つかったとき、まずは文書や電話で確認を求める「簡易な接触」が行われることも多く、所得税ではその件数が大きく増えています。
簡易な接触は、それ自体は実地調査ではありませんが、放置してよいものではありません。届いた文書の内容を確認し、申告に誤りがあれば自主的に修正申告をする、誤りがなければその理由と資料を整理して回答する、といった対応が必要です。どう答えればよいか迷ったら、回答する前に税理士に相談してください。
実地調査は、原則として事前に連絡があり、日程を調整したうえで行われます。調査では、AIの分析で絞り込まれたポイントについて、具体的な取引の内容や根拠資料を求められることがあります。当日あわてないためにも、日頃から「説明できる帳簿」をつくっておくことが一番の準備です。
AI時代の税務調査に、経営者がいまできる4つの備え

ここでいう「対策」は、調査を逃れるための裏技ではありません。正しい申告を、数字と証拠できちんと説明できる状態をつくることです。
1. 毎月の数字を締めて「説明できる」状態にしておく
年に一度の決算でまとめて処理するのではなく、毎月の月次決算で数字を確定させておくと、増減の理由をその都度把握できます。記憶が新しいうちに理由を残しておけることが、調査のときの大きな強みになります。
2. 異常値は、税務署より先に自分たちで見つける
AIが見ているのは「いつもと違う数字」です。であれば、こちらも同じ目線で毎月の数字をチェックし、科目の誤りや計上漏れ、急な増減を先に見つけて修正・説明できるようにしておくのが効果的です。
3. 請求書・契約書・電子データを揃えておく
取引の根拠となる請求書や契約書、電子取引のデータを、すぐに出せる形で保存しておきましょう。電子帳簿保存法やインボイス制度に沿った保存は、調査のときの説明の裏付けにもなります。
4. 書面添付制度を活用する
税理士が申告書の作成にあたって確認した内容を書面で添付する「書面添付制度」を利用すると、税務署が調査に入る前に、税理士に意見を聴く機会(意見聴取)が設けられます。申告内容をていねいに説明できる制度として、あわせて検討する価値があります。
- 毎月締める:増減の理由を記憶が新しいうちに残す
- 先に見つける:異常値は自社で見つけて直す・説明する
- 証拠をそろえる:請求書・契約書・電子データをすぐ出せる形に
- 書面添付:税理士の確認内容を申告書と一緒に伝える
税務調査の種類や流れ、当日までの準備については、税務調査のサポートのページで詳しく解説しています。
野村税理士事務所は「AIを使う側」として、積極的に対策します

国税がAIを使って調査先を選ぶ時代に、会計事務所がAIを使わない理由はありません。これからの会計処理・税務は、AIのことを抜きにしては行えない——私たちはそう考えています。
野村税理士事務所では、AIを駆使したオリジナルの分析資料を作成し、顧問先の皆さまの数字を「AIの目線」と「税理士の目線」の両方から毎月チェックしています。
AIを駆使したオリジナル「月次分析レポート」

毎月の試算表をもとに、次のような内容をまとめたレポートをお届けします。
- 経営ダッシュボード:売上・利益・現預金など、押さえるべき数字をひと目で確認
- 三表ダイジェスト:損益計算書・貸借対照表・キャッシュフローの要点を整理
- 前月比・前年同月比・予算比の自動分析:大きく動いた数字を自動でピックアップ
- 増減理由の説明:売上や経費が動いた理由を、取引日・取引先・摘要・金額といった具体的な取引までさかのぼって確認
- 100項目を超える自動チェック:科目の誤り、計上漏れ、異常な残高、税区分の確認が必要な取引などを洗い出し
- 資金繰りの見通し:今後の現預金の推移を予測し、早めの手当てを提案
- 経営リスクとアクションプラン:数字から読み取れる課題と、次に打つべき手を提案
決算時には、1年間を通した「年度総合レポート」
決算の際には、1年間の推移をまとめた総合レポートを作成します。年間の業績の振り返りに加え、決算の見込み・納税額の見通し、決算で確認すべき事項、次の年度に向けた提案までを一冊にまとめます。
AIに任せきりにはしません
AIは便利な一方で、もっともらしい間違いをすることもあります。当事務所では、数字のチェックはあらかじめ決めたルールにもとづいて行い、AIは分析の整理や文章化、改善提案の補助として使います。そのうえで、最終的な確認と判断は必ず税理士が行います。
こんな経営者の方におすすめです
- freeeなどのクラウド会計を使って、経理をできるだけ効率化したい
- 毎月の数字を、融資や投資の判断などの経営に活かしたい
- 税務調査で慌てないよう、日頃から数字を説明できる状態にしておきたい
- 創業・会社設立したばかりで、数字の見方から相談したい
まとめ:AIが調査先を選ぶ時代だからこそ、毎月の数字が大切

- 税務調査の調査先選びには、国税庁がすでにAIを活用している(法人税・所得税ともに公表済み)
- 調査そのものは調査官が行うが、AIの分析で「確認すべきポイント」が絞り込まれている
- 法人の調査件数は減った一方で、追徴税額は直近10年で最高。1件当たりの精度が上がっている
- 所得税では文書・電話による「簡易な接触」が約2割増。連絡が来たら放置せず、内容を確認して対応する
- 備えの基本は、毎月の数字を締めて、増減の理由と証拠を説明できる状態にしておくこと
野村税理士事務所では、AIを活用したオリジナルの月次分析レポートで、経営判断に役立つ数字づくりと、税務調査に強い帳簿づくりをサポートしています。福岡を中心に、オンラインでのご相談にも対応していますので、お気軽にお問い合わせください。
参考資料:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和7年12月)/国税庁「令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況」/国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」

税金や資金繰りの課題を解決するなら、野村税理士事務所へご相談ください。
当事務所は、福岡を中心に企業経営者の税務と経営を支援している税理士事務所です。IT・Webにも強く、あらゆる業種の事業者様のクラウド会計の導入サポートを通じ、事業の安定化を図ります。
オンライン相談にも対応しており、遠方からでも専門家のアドバイスを受けることができます。初回のご相談は無料ですので、節税や資金調達でお悩みの方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

野村税理士事務所代表 野村真一
税理士業界23年、野村税理士事務所代表でfreee認定アドバイザー。日本税理士会連合会、九州北部税理士会所属。認定経営革新等支援機関の認定事業者として事業再構築補助金の申請支援を行う。
YouTube・TikTokでは「税理士のむさん」として、税金・会計のポイントを短い動画で解説しています。
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